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夏の凶悪

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
空調の効いたタクシーから、ずっしりと重いボストンバックを引きずるように車外に出る
駅前はまだ8時前だというのに、うだるような暑さだ
昨夜から一睡もしていない頭に蝉のなく声が頭の中を跳ね回る
構内に入ってこの季節には似つかわしくないロングコートのポケットから、コインを取り出してペットボトルのミネラルウォーターを自販機で買う。ゴトリと落ちてきたペットボトルの音すらやけに耳に響く

ああ、まただ世界が歪んできた

同じポケットからヒートシートのままのボルタレンと液状になったリスパダールを3つ一気に喉に流し込んだ
ミネラルウォーターを少し飲んで苦みをやりすごすと、自販機にもたれかかりペットボトルを額に当て深呼吸をした
いくらか眩暈も耳鳴りもマシになってくる
そのままそこにうずくまり、人からは見えないようにボストンバックの中を確かめる
AKS-74U、AK-74の銃身を切り詰めたもので、集弾率は悪いが群衆に向けて弾をばらまくのにはちょうどいい
5.45×39mmの弾が30発こめられたマガジンを上下逆さに粘着テープで留めたものが20個
北朝鮮からの闇ルートで仕入れたロシアご自慢のマシンガンと弾だ
そのままの体勢で両方の腰に手をやる
日本という国はライフルやマシンガンなどの大物の密輸には、監視が緩いが拳銃となるとかなり厳しいし
闇ルートでもマシンガンと変わらない値段が付くほど高価だ
仕方なく型遅れのベレッタM92を2丁横田基地のアメリカ兵から買った
日本人の、しかも女性である私にはグリップが大きすぎるし、反動も大きい
利点と言えば装弾数がマガジンに15発チャンバー内に1発の16発とかなり多いところぐらいだろうか
資金もなかったのでためしに10発程しか試射していないから、命中率なんて知れたものだ
でも、30万円も出して、2メートル先の的に当たらないトカレフよりましだろう
その2丁を金に目がくらんだアメリカ兵がおまけにおいて行ってくれたホルスターで巻きつけてある

それだけ確認をすると、ボストンバックのジッパーを閉めて立ち上がった
凹んだ形状になっている自販機のブースから、一歩足を踏み出すとムッとする熱気と
通勤ラッシュの人の臭いに吐き気が一気に催した
目で、WCの看板を探す。あった。人ごみをかき分けボストンバックを引きずりながら走った
都会はいい。真夏にロングコートを着た不審な奴がいても誰もがうつろな目で、前を向いていく
個室に飛び込んだ。吐いた。しこたま吐いた。しばらく食べてないので胃液しか出ない
ミネラルウォーターとボルタレンの錠剤が半分溶けているのが見えた
涙、鼻水顔中どろどろになって吐いた。一度個室を出て顔を洗面台で洗った
「あの……大丈夫ですか?」
隣で手を洗っていた女がおどおどしながら喋りかけてきた
嘔吐する声も聞こえていたのだろう
「あ、ああ。昨日飲みすぎちゃったみたいだ」
取り繕うように無理やり笑顔を作った
「顔、真っ青ですよ?」
心配そうにのぞきこまれる
「大丈夫、大丈夫、ありがとう」
そういいながらハンカチ代わりのバンダナを個室に忘れてきたことに気づいた

(ちっめんどくさいメスだな。どっちにしろ一緒だし今消すか……)
私は軍隊などいたこともないし、殺人のプロでもない。色んな知識やなんかはDVDやインターネットで学んだだけだ
だから抜き打ちをするときは「男たちの挽歌」でチョウ・ユンファがやっていたように、右手で左腰の拳銃を抜くいわゆるクロスドローばかり練習してきた
そっと右手をコートに伸ばしてベレッタを握ろうとした、まさにそのとき
「ハイ、ハンカチ。使って」
と女がハンカチを差し出してきた。面喰いながらも会話をしないわけにはいかなかった
「え?あ、ああ、いいの?」
「うんうん。あ、それバーゲンで買った奴だから返さなくていいよ~」
「あ、うん……ありがとう」
「じゃあ私電車来ちゃうからいくね、バイバイお姉さん」


個室に戻ると、天井に煙探知機がないのを確認して今朝封を切ったばかりの煙草にジッポで火をつけて、肺胞の奥深くまで煙を吸い込みニコチンを体中にいきわたらせた
こんな日に限って見ず知らずの他人に厚意を受けるなんて、何て皮肉だろう
リスパダールだけは嘔吐する前に吸収されていたようで、若干落ち着いてきた
もう着る必要のないロングコートを、咥え煙草のまま立ち上がり脱いだ時
一枚の封筒がポケットから落ちた。中の便箋をひっぱり出し再度読んだ。昨夜書いたものだ
一通り読み終えると、封筒を握り潰し汚物入れにつっこんだ
便箋にはジッポで火をつけた。持てなくなるほど焼けたところで便器内に放り投げた

「お父さん、お母さんへ」

という冒頭の文章の部分だけが焼け残り、煙草を吸っているうちに水が浸みて沈んでいった
「バカか、私は」
と一人でつぶやき煙草も一緒に便器に放り込んだ。浮いてこないように適当にティッシュペーパーを丸めて、一緒くたにしてレバーで水を流した
しばらく見ていたが浮かんでくる様子もないので、準備に取り掛かった
髪をまとめてバンダナを頭全部を覆うようにかぶる。この暑さだと汗止めに十分活躍してくれそうだ
サスペンダー式になった弾倉帯には4つのポケットがあるが、そのうち3つにベレッタの9mmパラベラム弾15発の詰まったマガジンをねじり込み、残りの一つには煙草を入れた
20個のAKアサルトライフル用のマガジンは、腰のガンベルト、脛、太腿、にパンツの上からガムテープで貼った
最後にヒートシートからベタナミンを6錠取り出しペットボトルの水で噛み砕きながらのみほすと、尻ポケットに、ボルタレンとのこり3/4ほどになったミネラルウォーターのペットボトルを無理やり押し込んだ

即効性のあるベタナミンが早くも、私の脳内快楽物質の分泌を促す
AKのマガジンを一回リリースしトイレの床でコンコンッと詰め直しまた銃に込め直した
動作不良なんかで私の舞台を終わらせたくない

さあ、開幕の時間だよ

私はAKを担ぎ上げると、WCのドアを開け改札口まで走り出した



つづく


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夏の凶悪(2)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
駅構内は、これから葬儀に向かうかのように死んだ目をした人の群れで充満していた
私の恰好を見てもまたすぐに前方だけを見てゾロゾロ歩き出す
「家畜が。」
羊飼いにゾロゾロ連れられて歩く羊を連想して思わずそうつぶやいた

人の群れをかき分けて、駅前のコンビニエンスストアーに入った
それだけでもう汗をかいていた。足にテープ留めした弾倉が予想外に重い
「いらっしゃいませ~」
のんきな挨拶で出迎えられた。空調が効いていて汗がスウッと引いて行った
サバイバルゲームの行きか帰りと思っているのだろう。レジカウンターの老夫婦はにこやかな笑顔でこちらを見ている
店内を一回りした。サラリーマン風の男が4人、ジャージ姿の男が1人、OL風が3人、バイトらしき若い女が1人、WCには客は無し。
パンツの尻ポケットから弾倉に邪魔されながら、レジ横のキャッシュディスペンサーに近寄った
「あ、お客様、そちらのATMは9時からの利用となっております、申し訳ありません」
レジの中の年配の男性が、作り笑顔を浮かべて軽く頭を下げた
左腕に巻いたGショックを見ると、まだ8:30を少し回ったばかりだった

カチリッ

いきなり頭のスイッチが入った
ああ、まただ。もう止めようがない誰にも理解されない私の脳内の時間が暴走し始める

スリング(肩から掛ける帯)を緩めに張ったAKをしっかりホールドし、銃床を肩にピッタリあてると、天井に向けてフルオートマティックで引き金をマガジンが空になるまで、何度か標的を変えながら引き絞った。
私のAK74は古いタイプのAK47よりも反動が少ないといわれているが、それでもフルオートで撃った際の銃口の跳ね上がりの癖は抜けておらず、しっかり踏ん張ってないとひっくり返りそうになる
またフルオートでマガジンが空になるまで撃つなんて絶対に的には当たらない。タタタ、タタタと3~4連射しては、また的を狙い直すというのが鉄則だ
だが今回は脅しだけが目的なので問題ない

タタタタというAK独特の乾いた発射音が店内中に響いた
弾丸はフルメタルジャケット(完全被甲弾)なので貫通力はあるが、弾頭が固いせいでマッシュルーム現象が起きないため破壊力に劣る
それでも天井には無数の穴が開き、天井材の石膏パネルの崩れた粉が舞い、一部では吊り天井のジョイントが外れたらしく、だらしなく天井パネルが宙吊りになっていた

「すまないが、店長さん?」
私が尋ねると、さっきのレジにいた男が硬直しながらうなずいた
「ちょっと自動ドアのスイッチ切って、鍵かけてくれないかな?それと裏口の鍵もお願い」
人間が驚くと硬直してしまうのが常で、店長も「は、はい!」といったまま一向に動かない
じれったい。さっきの発射でまだ熱い銃口を、店長着ている半袖制服の肌に直接くっつけてつついてやる
ビクンとなった店長は見てるのが楽しくなるくらい、きびきびと一連の作業をこなした

自作の2連マガジンの上下を入れ替えるとコッキングレバーを引き弾を装填した
店内を見ると、まだ全員があっけにとられているか、うずくまっているかだった
また天井に向かって無造作に一発だけ撃つ
「おい、全員レジ前に集まれ」
客たちに動きはない。硬直したままだ。急激にイライラがつのってくる。
今度は菓子を陳列しているコーナーにむかって3発撃った
「いい加減にしろ!最初から殺すつもりはこっちにはないんだ!目的を達成したら解放してやる。さっさと集まれっ」
銃撃の後の寒々とした空気の中、知らない歌が有線BGMで流れていた
ここ数年TVなど見ていないから流行歌など分かるはずもなかった

やがてのろりのろりと全員が集まった
「よし、全員集まったな?全員正座して両手を頭の後ろで組め」
一人のサラリーマンの後ろに回り、銃口を後頭部に押し当てながら膝の後ろをアーミーブーツで軽く小突いてやる
自然と体は崩れ落ち正座の体勢になった。サラリーマンはのろのろと両手を首のあたりで組んだ
「もっとキビキビ動けよ!お前、会社でもそんな態度なのかよっ!ああ!?」
見せしめのために銃床で男の頬骨を一発突いた。奥歯が折れたのか、男は血のよだれを垂らしながらうつむいた
それを見ていた残りの8人は一斉に同じ体勢になった。

「たったこれっぽっちの暴力ともいえない暴力でお前らは屈する。簡単なやつらだな。私の受けた……」

そこまで毒づいて、またあの痛みが私の頭を駆け巡った

キンキンキンキン

鉄骨を金づちで叩くような、不快な音と突き刺さるような痛み
しばらくうつむいて表情が見えないようにしながら、瞼に力を入れ左手でこめかみを押さえ、痛みが遠のくのを待った
痛みが過ぎ去り顔を上げると、ジャージ男以外は不審そうな表情でこちらを見ていた
ジャージ男は目を輝かして私の装備や、銃を見ている。全く怖がる様子がない。使えるな、そう思った。
左手のGショックをみるともう九時を回っていた。自動ドアを閉めて鍵までかけていたがこの時間帯に他の客が入ってこなかったのは、ほぼ奇跡と言っていいだろう

「ATMは9時からだったな?」
店長に問いかけた。店長は無言でコクコクうなずいた
キャッシュディスペンサーに近寄り、さっき苦労して取り出したカードをまた同じ要領でとりだした
カードを差し込む。タッチパネルの残高照会を触る。¥602.854と表示がされた。また元の画面に戻る。
今度はお引出しと表示されている所をタッチし60万円を引き出した
奥歯を折ったサラリーマンには5万円をみんなによく見えるように一枚一枚数えながらスーツの胸ポケットにねじ込んだ
「治療代だ」
なるだけ感情をこめないように言い放つと、他のサラリーマンには3万円ずつ同じように胸ポケットに放り込んでいった
OL3人には2万、バイト店員には3万を両手を解放させ手に握らせた
「すごい時給だな、30分で2万か。ラッキーだったろ?」
OLに向けてウインクしながら言ってやった
固い表情のその皮一枚下にある喜びの表情が見て取れるようだった

「あ、あの僕には……」
声の主に視線をやると、ジャージ男だった。周りの8人がいらんこと言いやがって、刺激するなよ!というオーラをまとった視線をジャージに集めた。本当にこの状況でそんなこと言えるなんて大したものだ
「お前にはないよ。その代り、金には代えられない体験を生で見せてやるよ。ネット動画じゃない、リアルをな」
ジャージの眼はさらに輝いた。

「よし、じゃあOLさんたち3人はそのまま出て行っていいよ。なんなら警察に電話してもいい」
「え……ほ、本当にいいんですか?」
「ああ、さっさと出て行きなよ。事情を説明して会社サボって、その金でショッピングとか、たまにはいいんじゃないか。」
「あ、あありがとうございます」
なんで、拉致されといて感謝されるのかわからなかったが、店長に目で合図をして銃口を向けると、店長は小走りでカウンターから出てくると自動ドアのかぎを開けた。
またのろのろモードに移ったOL3人がゆっくりと立ち上がり、何度も店内を振り返りながら全員でていくと、また店長は自発的に鍵をかけた
カウンターに戻った店長に引き出した金額の残りを全部放り渡した
「これ、店の修復費には追いつかないだろうけど、私には今これしかお金がない。迷惑料だと思って取っておいて」
店長の眼をじっと見た
店長は私の眼をじっとみつめた。慈しみとか愛とか憎悪とかそういう類でない、頭の中まで見通すような視線が年老いて垂れ下がった瞼の向こうから突き刺さった
「預かっておきますね」
そう言うと、カウンター背面の煙草コーナーの下段にある引き出しにしまった。これだから団塊の世代は怖い
元は自衛官上がりか、警察関係か?いらぬ考えが頭を駆け回る。振り払うように大きな深呼吸を一回した

振り返るとサラリーマンたちがおとなしく正座をしたまま、餌をねだる子犬のような目つきで私を見上げていた

残るはレジの老夫婦、サラリーマン4人、ジャージ、バイトの女の子の8人だ

AKを構え直すと、銃口を男たちに向かって聞こえる程度の声で

「さあ、男ども仕事の時間だよ」

そうつぶやきながら、右胸のサスペンドベルトのポケットから、煙草のパッケージとジッポを取り出し、歯で一本煙草をひっぱりだすとジッポで火をつけた




つづく……かも?


Novell以来の小説で結構専門用語とかも多くて、わかりにくい方が大半だと思います
1年以上のブランクがあるとやっぱりきついっす^^;
まー細部にこだわらず軽く読み流してくれたら嬉しいです
あと、もし軍ヲタの方で読んでくれてる方いらっしゃいましたら
陳腐な表現はわらいとばして、誤記があったら教えてほしいなとか思ってます



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夏の凶悪(3)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
「と、その前に皆携帯電話は持ってるな?」
男たちが顔を見合す
「10分やる。連絡を取りたい奴は電話していいぞ。警察に電話してもいい。ただしお前らの人数や今の状況は喋るな。もし、それを喋る声が聞こえたら全員打ち殺す。いいな?じゃあ今からだ。」
4人のサラリーマンが一気に携帯を取り出し、各々電話をかけ始めた。
不思議と警察に電話をかけるものはいなかった。
そんな中バイトの女の子とジャージは携帯電話を取り出す様子がない
「どうした?お前らはかけないのか?もうこれで誰とも会えなくなるかも知れないんだぞ?」
銃口を向けながらそう言うと、ジャージがこっちを見上げながら
「別に連絡取る相手はいないです……」
そういうと、またニコニコ顔に戻った。こっちの調子が狂ってくる
「そっちは?」
バイトに銃口を向ける
「あ、ケータイは控室に置く決まりなんで、今ないんです……」
半泣き顔で答えた
店長を振り返る
うんうん、とうなずいている
「とってこい」
そういうとバイトは飛び上がって一目散に控室に向かって走って行った
一分もしないうちに戻ってきたバイトが急いでメモリーを呼び出して電話を始めた
再び店長に向き直り
「お前らもだ」
そういうと店長夫婦はすでにレジカウンターの上に携帯を2個並べて置いていた
「かけなくていいのか?」
そう聞くと店長が首を振った
全員の話し声が段々と消えていった。まだ10分経っていないが全員話し終えたようだ
カウンターの2つの携帯をまず取って床に置いた
全員から携帯を取り上げそこに集めた
「携帯2台持ち、3台持ちの奴はいるか?持ってたら出せ。後でチェックするからな。その時出てきたら容赦なく打つ。それから無線LANカードの類も出せ。PCは構わん」
一人一人をゆっくり狙うように銃口を横に動かしていく
サラリーマン2人がスーツの内ポケットから携帯を取り出した
そのうち一人がアタッシェケースから、ノートPCを取り出し、LANカードを引き抜いた
携帯2つとLANカードを取り上げると携帯の山と一緒にした
「ジャージ、店長からビニル袋をもらってこの携帯、全部詰めろ」
ジャージが目を輝かす
「はい~」
スキップを踏みそうな勢いで店長の渡した袋に携帯を詰めていく
他のサラリーマン4人、バイトの痛いほどの憎しみのこもった視線など気にしてない様子だった
「できました~」
嬉々として、その袋を持ち上げたジャージに次の指令を出した
「それをフードコーナーの揚げ物機、わかるか?油の溜まったシンクみたいなやつだ」
ジャージはコクコクとうなづきながら、目で位置を確認していた
「その中に袋の中身全部漬けてこい」
「あ、はい」
すたすたと歩いていき一気に油漬けにしたようだ。ドボボボという音が響いた
皆、大切なダイアルメモリーがあっただろう。それも失われた。身近なツールを破壊されたショックで目を見開いている
「終わりました~」
また目を輝かして帰ってくるジャージに憎しみの視線が突き刺さった
いいぞ。だが、まだまだ。憎しみは分散させればさせる方がいい
「よくやった。戻って座ってろ」
今度はバイトの子に銃口を向けた
「バイトちゃん?」
女の子が青ざめた顔でこっちを見上げた
「POP広告用の大きな紙はないかな?」
「あまり大きくはないけどあります」
声が消え入りそうだ
「じゃあすぐにあるだけ持ってきて」
「はい……」
そう力なく答えると、控室から四つ切サイズの蛍光色の紙を10枚ほど持ってきた
「店長、窓のブラインドおろして。」
店長が走って行って手で紐を引き、おろしていった。てっきり自動かと思っていた
入り口の自動ドアーの部分はやはりブラインドはなかった
「店長、セロハンテープとはさみ、貸してくれるかな?なければ商品を使うけど?」
「あ、あります。」
そう答えると奥さんの方が手際よくはさみを2個とテープカッター台にはまったセロハンテープを、カウンターに置いた
「ジャージ以外の男は、そのバイトの子が持ってきた紙で、自動ドアを目張りしろ。はみ出してもかまわん。要は目隠しになればいい。」
男たちは顔を見合わせのろのろと立ち上がった
「早く!これも10分でやれ!それからお前、こっちにこい」
銃床で殴った顔がもう腫れ始めた男を指差した。男が恐る恐る近づいてくる。
ヒップポケットから取り出したボルタレン2錠と飲みかけのミネラルウォーターのペットボトルを渡した。
「飲め。痛み止めだ。いくらか楽になる」
他の男3人は作業に取り掛かっている
男は一瞬驚きながらも薬を飲み干すと、ペットボトルのふたを閉めながら「ありがとう」と言った。
飴と鞭だ。殴られて、薬をもらってありがとうもないだろうに。
「飲んだら作業に移れ」
「……はい」
男は怪訝そうな顔を浮かべながらもほかの男たちと合流した

店長に聞いた
「ここは、店舗兼住居か?」
「いいえ、店だけです」
「彼女は奥さん?」
「はい」
「トイレに窓はある?」
「いや、ないです」
「控室には?」
「埋め込み式の擦りガラスが。開閉はできません」
「わかった、ありがとう」
どうやら男たちの作業が終わったようだった。店長にビニール袋をもらうと文具のコーナーに行きカッターを一個取り、封を切った。残りの目に着くカッター類は全てビニールに入れた。
男達からはさみを取り上げ、それもビニールに入れた
手に取ったカッターから刃をだし、自動ドアの合わさる部分に切れ目を上から下まで慎重にいれていった。
これで自動ドアを開閉しても目張りがはがれることはない。そのカッターもビニール袋に放り込んだ
ビニール袋の口を縛ろうとしたとき、さっき薬を飲ました男が突然口を開いた
「まだレジカウンターと控室に刃物があるかもしれない」
全員が男を見た
ジャージに銃口を向け、探せとばかりにレジの方へ銃口を振った
ジャージはカウンターの中に入り、レジの下や煙草棚の引き出しをくまなく調べた。大型カッターが2本出てきた。
「あった、あった、ありましたよ~~」
そういいながら私の広げたビニール袋にカッターを2本とも落とした。私は今度こそ袋の口を縛ると、カウンターの上に置いた。
それにしても、あの男、自ら協力する発言をするとは……
無表情を装った仮面の下で、私はほくそ笑んだ。早速ストックホルム症候群の予兆が出だしたか……




つづく……のか?


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夏の凶悪(4)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
左手のGショックを見る。10時前だ。時間を少し食いすぎたか……
「バイトちゃん」
座り込んだままのバイトの女の子に声をかける
「……はい」
答える声に力はない
「着替えて帰っていいよ」
「え?」
「何度も言わせるな。今日はもうあがっていいよ」
無理やり笑顔を作って、優しくいった。
「はい!」
ピョンと飛び上がると、急いで控室に走って行った。遠くから心なしかサイレンの音が聞こえてくるような気がした
手がブルブルと震えだす。リーマスの副作用だ。
AKを肩掛けにして両手をパンツのポケットに突っ込み、悟られないようにする
「店長、あんたら夫婦っていったよな?」
カウンターを振り返り老夫婦をみる
「はい。」
「じゃあ奥さん、あんたここに残るか、バイトと一緒にここを出るか決めろ」
「……。」
「帰りなさい。」
店長が奥さんに向かって諭すように言った
「ここにいても、ほぼ全員が死ぬことになるぞ?なるだけ女は殺したくない」
私の一言が、効いたかどうか……
「子供と孫達を頼む」
やはりその店長の一言の方が効いたようだ。
「帰ります。」
小さくそうつぶやくと、ゆっくりと控室に向かっていった
所詮「夫婦」などと言っても、我が身かわいさは変わらんか。薄っぺらい愛情だな。一足先に出てきたバイトちゃんにカッターの詰まった袋を手渡す。
「一緒にこれを持って出て行ってくれるかな?ここじゃないコンビニのゴミ箱にでも捨ててくれ」
手の震えもばれていないようだった。
「はい。」
やり取りをしているうちに、手早く着替えを済ませた奥さんが合流した
「裏口から出てくれ。後ろからこいつで狙ってるから妙なまねはするなよ」
老夫婦はお互いの顔を見合わせ、軽く目で会話をしているらしかった

その間私は全員から死角になるように商品棚の影で、右腰のホルスターからベレッタを抜出し、マガジンをリリースすると弾丸を全部抜いた。残るはチャンバー内の一発だけだ
その作業が終わるとマガジンを元に戻し安全装置を外し、ハンマーを起こした。ベレッタはハンマーを起こさなくてもトリガーが引けるダブルアクションを採用しているが、連射の必要のない、かつ女性の私にはトリガーの引き代が短くて済むシングルアクションの方が楽だからだ
カウンター前に進むと、また自主的に正座に戻っている男4人とジャージの前に立った
「ジャージ、立て」
「は~い」
相変わらず間の抜けた声、こいつは本当に頭が足らないのか、足らないふりをしてるのか……
右手に握ったベレッタをわざと映画のように真横にかまえ、水平打ちした
あれはノワール物の映画のせいで流行した格好だけの打ち方で、実戦では全く役に立たない的にかすりもしない打ち方だと専門誌には書いてあった。確かに照準は水平方向じゃ全く役に立たない。
だが、1m先のレジスターを狙うには問題なかった。AKのタンッという音とはまた違うパンッという音がして、9mmパラベラム弾によってレジは見事に破壊された。ガス圧で排莢された薬莢が真上に飛び、放物線を描いて私の頭を飛び越すと、コロコロと男たちの目の前に転がっていった
銃口からも、空の薬莢からも薄い煙が上がった
「おい」
ジャージに声をかける
「へ?」
間の抜けた返事でこっちを見た
「今から女2人を裏口から逃がす。男たちが妙な動きをしたら、躊躇なくこれで撃て」
カウンターのおしぼりでまだ熱い銃身を持ち、ジャージにグリップを握らせた
「わかったな?」
「あ、はい」
握りしめたベレッタを嬉しそうにしげしげと眺めながら何度もうなづいていた
「あ、それから位置はここだ。あまり接近するな。一斉にとびかかられたら対処できない」
「はい~~~」
ジャージは男たちを舐めるように銃口を左右に振りながら狙いをつけて遊びだした
男たちは銃口が自分に向かうたびにすくみ上りうつむいて目を閉じていたが、やがて全員がそのままの格好で動かなくなった

「よし、じゃあバイトの子、奥さんの順で裏口から出ようか」
AKを腰だめにして、女2人をうながした
もう警察が押しかけて、裏口を固めているようなら盾になってもらいながら銃を乱射するだけだ
女たちが死のうが生きようが私にはあまり関係ない。自分ながら、女は管理がめんどくさい。従順ではない。コンビニに入店した時点で、私一人で制御できる人数を超えているのがわかった時点で開放は決めていたことだ。
バイトが鍵を開けてそうっとドアを開ける
不思議と手の震えは止まっていた
「全開にはするな!自分が通れるだけ開けてすり抜けていけ!」
囁くように命令する。
バイトは無事に屋外に出た。不審な物音も聞こえない。
「次は奥さんだ。無事に旦那と会えるといいな。」
そう声をかけると、精いっぱいの抵抗なのか力のこもった視線で睨みつけてきた。鼻で笑い飛ばすと銃口で背中をつつき
「行け」とだけ言った
奥さんもバイトと同じ要領でうまく屋外にでた。私はドアの隙間から顔をのぞかせた
そこには奥さんを抱き留め保護する、機動隊員の姿が一瞬移った
まだ視線は合ってない。そっとドアを閉め施錠した。ドアのガラスはワイアー入りだ。
「店長、粘着テープを持ってここに」
高鳴る心臓の音を聞かれやしまいかと極めて冷静な口調を心掛けて、そう言った
「この窓と控室の窓に※印になるよう、テープをしっかり貼ってくれないか」
「ああ」
夫人が無事脱出したせいか、店長の喋りは「接客業の店長」ではなく、「男」のそれになっていた
きびきびと手際よく貼っていく
あっという間に控室のガラスにも貼り終わると、ポンポンと粘着テープのロールを手で放り投げてはキャッチして、軽い足取りで帰ってきた

この男何者だ?不信感が頭の中でぐるぐるまわる。それを悟られぬよう腹に力をこめて
「ここで座ってていい」
それだけいうとサラリーマンとジャージの方へ歩いて行った





つづく……のかなぁ




初めて書くノワール物のストーリー、物語破綻寸前でギリギリの構成をしながら書いています。これからどうなるか私にもわかってませんが、よろしく!



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夏の凶悪(5)

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男たちの前を通り過ぎながら、横目でちらっと様子をうかがった
相変わらずジャージがもう弾の入っていない銃を振りかざして、男たちを威嚇している
空のマガジンを突っ込んでチャンバー内の一発もレジの破壊に使った。残弾は0になっている。
そのまま窓際まで行き、雑誌コーナーとコピー機の間のスペースに体をねじ込み、ブラインドをわずかに指で広げて外の様子をうかがった。

パトカーが赤色灯を回して、5台側面をコンビニ側に向かってアーチを描くように並んで包囲している
その奥に窓に金網を張り、車体をブルーに塗られた機動隊輸送用の大型バスが威圧するように停まっていた
さらにその奥には「高知県警察」とステッカーを貼った赤いパイロンに、黄色いテープを貼リめぐらせて一般人の侵入ができないようになっていた。
一旦ブラインドを閉じこめかみを押さえた。また例の頭痛だ。冷房が効いているのに全身から気持ち悪いベトついた汗が湧き出てくる。OL達を解放してからもう1時間半が経とうとしている。誰かが電話したとしたら、この配備は当たり前のことだ。

ボルタレンを取り出し、奥歯ですり潰すと唾で嚥下した。背を低くし雑誌コーナーを抜けて、ドリンクコーナーの冷蔵庫にたどり着くとエビアンを一本取り出し、封を切るとうがいをするように流しこんだ。
軽く頭を左右に振ると、首がコキコキっと音を立てた。ショーの開幕を前に緊張しているようだった。
肩を力いっぱいすくめて持ち上げ、息を吐きながら今度は一気に脱力させてダラーンと肩を落とした。この運動を10回ほど繰り返した。気休めだが、少しはリラックスができた。

もう一度今度は雑誌コーナーの逆の端、ドリンクコーナー側からブラインドを軽く開けて角度を変えながら、よく観察した。最前列のパトカーのアーチの後ろ側に私服警官が10名強、その後ろ、青バスの前に機動隊員が20名ほど整列している。透明の盾と、ヘルメットの後ろのガードパーツで新型制服だとわかった。新型の盾はトカレフの弾でも傷がつくくらいのダメージしか追わせられないポリカーボネイト製だ。他にもさまざまな防弾装備がなされている。厄介だ。まあSAT(特殊急襲部隊)は大阪か福岡からくるしかないし、高知に来ても、まずは奴らは同じ建物を再現し、シュミレーションする所から始める。第一高知県警のメンツにかけて最後まで出動要請をかけることはないだろう。それまでに私のゲームとショーは終わる。
黄色い帯の向こうには、TVカメラとレポーターがもう集まってきていた。野次馬を整理する制服警官の姿も見えた。
遠目にもはっきり見える特徴のロゴマークを大きなカメラに貼りつけたNHKのカメラマンとリポーターの顔をしっかりと頭に刻み込んだ

しかし、これほどの包囲網になるとは……一体あのOL共どんな110番したんだ。苦笑が漏れた。
今度もまた背をかがめ、ブラインド地帯を抜けるとまっすぐに立った。
「お前ら、立てるか?奥の店長が座ってる所に集合しろ」
男たちに冷たく言い放つと、男4人は足がしびれていたのかよろよろと立ち上がった
ジャージに向かって
「お前もだ」と言う。もう終わりか、とつまらなそうに私の後をついてきた
店長は乳製品の陳列棚にもたれて、胡坐をかいて座っていた
「お前らも座ってろ。正座はしなくていいぞ」
その私の言葉と、店長の態度に皆が不審がりながらも、そろそろと腰を下ろした
「店長、この店にTVは置いてあるか?」
私は店の配置を確認しながら聞いた
「ああ、あるぜ」
一同がその店長の物言いに目を見開く
「ここまで届くかな?」
「どうかな、アンテナ線次第だが……」
「やってみてくれ」
「ああ」
店長はカウンターの中に入っていった。
「そこにはなかっただろう?」
「いや、普段は布かけてある、ほれ」
カウンターの上にトンっと14型サイズの薄型TVを置いた
「本部のお偉いさんや、客に見つかるとアレだから、深夜の暇な時にちょいとな」
にやっと笑って、今度はカウンターの内側に体を潜らせて何やらゴゾゴゾとやっていた
「ああ、20M巻のアンテナ線がそのまま置いてあるわ。そこまでなら余裕だぜ」
「わかった。引っ張ってきてくれ。それからジャージ、お前は控室に折り畳みの椅子があるから2つ持ってきてくれ」
ジャージはうんうんとうなずくとあっという間に小走りで2つの椅子を持ってきた
「よし、そこに置いてくれ」
ジャージは乳製品コーナーの対面のパンの陳列棚に椅子をそっと並べたが、何やら不服そうだ
「なにか問題があるのか?」
ふくれっ面で首を横に振るジャージ
試しに「よくやったな」と口だけで褒めてみた。その途端、ジャージはにこやかな笑顔を取り戻し、鼻歌を歌いながら床に体育座りして、ベレッタで遊び始めた
「危ないから、振り回すな!」
弾も入って銃なのに、もっともらしく言う。
「は~い」
幼稚園児並みの反応だ

「ここに置くのか?」
店長の声に振り向くと、カウンターに潜り込んだせいか頭に白いほこりをかぶったままTVを抱えたまま立っていた
「……全くお前と言い、ジャージといい、子供みたいだな」
全く気付いてない店長の頭を、自分の頭に巻いたバンダナを外しパンパンとはたいてやった。
舞い上がった白い綿埃に、店長は「あ」とだけ言い照れたように頭を書いた
何なんだ、この茶番は。空気が緩みきっている。気を引き締めるために、バンダナを力強く締め直した。
折り畳み椅子を2つとも広げて全員が見えるようにカウンターの正反対、WC側に一つを置きTVをそこに置いた。もう一つは私が座るためにカウンター側に置いた。店長が差し出したリモコンを手に取って、チャンネルをザッピングしながらNHKにあわした。どの局もこのコンビニを映し出していた

「店長、電話もここに」
TV画面をじっと観察しながら、顔を向けずにそう言った。
「子機だが、いいか?」
「ああ」
間もなく店長が持ってきたのは、ナンバーディスプレイのものだった。ありがたい。
さっきサラリーマンの男にペットボトルの水を飲ませて、ボトルはカウンターに置いたままだった
右のヒップポケットが空いたままだったので、そこに子機を突っ込んだ

銀行でもない、信用金庫でも、サラ金でもない、そして郵便局でもない
何のために人質を取って籠城しているのか、警察は分かりかねて困惑しているだろう
OLたちはなぜ解放されたのか、バイトと店長の奥さん、普通は最後まで残すはずの女ばかりの解放
そしてOL達は私が自動小銃と拳銃を持っているのを見ている。足と腰に張り付けられたたくさんのマガジン(弾倉)。混乱したOL達は横並びにされコンビニ内にいた人数、私の装備、すべてがちぐはぐな意味不明な110番をしたに違いない。
警察は困惑しているだろう。でなければ接触もなしに機動隊の投入はあり得ないからだ。
だからこっちからは接触しない。サーモ(熱探知)でコンビニ内の人員を把握するにも、この炎天下。サーモは馬鹿になる。もしガラスに密着させたとしても、アイスクリームのコーナー、弁当のコーナー、文具のコーナーなどと様々な温度変化の一番奥に陣取った私たちは確認できやしない。

TVの画面を見た。さっき解放したバイトちゃんと奥さんを抱き留め保護した隊員は、いまは盾を片手に棒のように立って立哨しているだけだ。
視線を男たちに投げた
「じゃあそろそろ自己紹介の時間にしようか?」




つづ……けていいの?





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夏の凶悪(6)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
「と、その前に全員でショッピングといこうじゃないか。店長、売り物だけど勝手にもらうよ?さっきの金で事足りるだろう」
「ああ、いいぞ」
店長がうなずく。
「アルコール以外なら何でももってこい。しばらくここから動けないから余分目に持ってくるといい。それからジャージ、文具コーナーの横に灰皿とジッポオイルがあったからもってこい。ジッポオイルはあるだけ持ってこい。いいな?」
ジャージはコクコクと頷くとぴょこんと立ち上がると、小走りで文具コーナーへと向かった
それを機に男たちは、ゆっくりと立ち上がって各々が好きなコーナーへと歩き出した
「5分だ!5分で済ませて戻ってこいよ!」
声を張って、急ぐよう促した
「店長、控室に工具箱と三脚があったな?それを持ってきてくれ」
「わかった」
店長は相変わらず飄々とした足取りで控室に向かった
私は新しいミネラルウォーター一本と、オロナミンCの瓶を5本カゴにいれると、トイレに向かった。
オロナミンCの中身を全部流し、ついでに用も足した
その足で控室に向かう。店長はもう居なかった。やはりあった。掃除用のタオルと雑巾が数枚ずつ干してある。乾いたのを選んでカゴにいれ、待機位置に戻った
戻ってきているのは、男2人と店長だけだった。店長に三脚を持たせて、裏口に回った。
突破されるとしたらまずここだ、と思った。店舗と裏口の三和土の3cmほどの段差を利用して、裏口のドアノブにぎりぎり架かるよう店長に指示した。外開きのドアーだから、外部から開けると三脚が倒れて知らせてくれるという寸法だ。また突入班が侵入しても複数で一斉に入れる幅のないところで、三脚の踏み台が足場を悪くしてくれることも期待している

待機場所にもどると全員が揃っていた
折り畳み椅子に座ると、腰に巻いたガンベルトの背中にあるナイフシース(ナイフを入れる鞘)から、ナイフを取り出した。映画ランボーのようなギザギザのコンバット(サバイバル)ナイフではなく、俗にダガーと言われる刃渡り18cmのファイティングナイフだ。腕力や筋力のない私には、コンバットナイフは重すぎるし、薙いだ後の慣性を止められず、切り返しが遅くなる。そもそも殺傷用ナイフというのは「突く」のが目的であるから、私にはダガーで十分だ。自分の持ってきたカゴを椅子に引き寄せ、タオルを取り出すとナイフで切り裂きながらTVに目をやった。まだ動きがない。焦れてくる。向こうさんも炎天下の中焦らし作戦に入っているのだろうか。

「今度こそ自己紹介をしてもらおうか」
タオルを切り裂く作業を続けながら一番奥のスーツを見た
「お前からだ。名前と仕事だけでいい」
スーツがビクっとなった。そういえばだれも持ってきた食糧に手を付けてない
「飲み食いしながらでかまわん。初めからお前たちを誰一人殺すつもりはない。私が目的を果たすまで人質の役を演じてくれればいい。小学校の学芸会でやっただろう?あれだ。」
しゃあしゃあと嘘を笑顔で言ってのけた。本心ではこいつらは盾で、命がどうなろうが別に構いはしない。
スーツは目の前のアクエリアスの封を開けるとゴクゴクっと一気に飲み干すと、大きなため息をついてこっちを見た
「本田といいます。仕事は自動車のセールスマンです」
「まさかホンダじゃないだろうな?」
冗談交じりで聞いてみた。本田はその途端顔を真っ赤にしながら
「それが……トヨタでして。よくからかわれます……」
思わず声を出して笑ってしまった
「わかった。今から解放まではお前はトヨタと呼ぶ。次。」
次の男はまだ若そうなのにハゲていた。モジモジしている姿が気色悪い
「……はい。若松と言います。仕事は……現在就活中です」
「お前、今年でいくつになる?」
「42になります。」
「リストラされたのか?」
「はい……不景気のあおりで勤めていた会社が倒産してしまい、今はハローワークに通う毎日です。」
「……そうか。じゃあお前は今からリストラと呼ぶ。いいな?」
リストラは力なくうなずいた。就活もうまくいってないのだろう、完全に負け犬の目をしている。
「次。」
タオルを切り終わったので、今度は雑巾を切り裂き始めながら3番目の男を見た。妙に堂々としている
「矢口、ヤメデカだ」
「ヤメデカってなんだ?」
「辞めた刑事のモジリだよ。ヤメ・デカ」
ナイフを持つ手が、ピタッと止んだ。矢口をじっと見る。
「どこにいた?」
「警視庁。別に名前が違うだけで、県警と変わりゃあしないよ。東京都警察とでも思ってればいい」
「何でやめた?クビか?」
「ああ、クビだ。実質はな。今は免許センターに天下って判子だけ押してるご身分だ」
ナイフを左手に持ち替え、右手で左腰のベレッタを抜き、矢口にポイントするとセーフティーを外し、ハンマーを起こした。一気に緩みかけていた空気が凍りつく。
「高知県警とのつながりは?」
「ないね」
「以前の部署は?」
「捜査一課特殊犯捜査第1係」
「なんだそれは」
「つまりあんたみたいな、強行犯のなかでも立てこもりとか人質を取って籠城する奴をとっちめる部署さ」
椅子から立ち上がり、ナイフを椅子に置くと、ベレッタをしっかりと両手でホールドし、スタンスをひろげて、しっかりと矢口の眉間に狙いを定めた。
冷房が効いているのに、心臓が高鳴り嫌な汗が顔を中心に吹いてくる。ホットフラッシュだ。こんな時に限って……。
「あんた、びびってるのか?」
矢口が笑った。それには答えなかった。銃をポイントしたまま、口を開いた
「お前は何で今まで無抵抗だった?強行犯相手のプロだったなら、なんとでもできただろう」
「いや、だからヤメデカって言っただろう。立てこもり犯相手にいくら現場で頑張っても、必ず犠牲者が出る。挙句の果てに上の都合で勝手に強行突入、また犠牲者が増える。こっちも死ぬ。そんな不毛な職場に嫌気がさしてな。完全な縦社会の世界で俺は雲の上の存在の管理官様を思いっ切りボコっちまった」
「だからなんだ」
「だから、今度は逆に人質側になってみるのも悪くないって思ったのさ。犯人でもよかったんだが、なにせ女房とガキがいるからな。そういうわけだから俺はお前さんに反抗もせんし、撃たれても遺族年金はたっぷり降りるから困りはせん。安心して銃をしまいな」

いささか短絡的な方便にきこえた。だがまあこちらも今は殺す気はないし、怪我をさせても厄介ごとが増えるだけだ。銃のハンマーをゆっくりと戻し、セーフティーをかけるとホルスターにしまった。ナイフを椅子の上から拾い上げると再び腰かけた。
ナイフを弄びながら、深く深呼吸をする。エアコンの冷気が顔中に浮いた汗を乾かしていく。気が付くとまたリーマスの副作用で手が震えている
「お前さん、どっか悪いのか?」
手に持ったナイフにまで震えが伝播しているのを見て、矢口が言った
「気にするな。すぐに収まる。それより次。」
矢口を一睨みして、次の男に視線をやった。若い。たぶん私の半分の歳ぐらいじゃないだろうか
「あ、僕は町田って言います。大学生です。今日は面接の日でスーツ着てます」
この時期になって急いで髪を黒く染めたのだろう。不自然な黒に所々茶色い毛も交じっている。
「じゃあ、リストラののおっさんと同じか」
「いや~~勘弁してくださいっすよ~っあんなおっさんとは違うっしょ~」
その言葉使いに無性にイラついた。椅子を蹴って立ち上がった。町田の正面に立ち髪をつかむとカウンターまでひっぱり出した。
「あ、ちょ、マジ痛いって、痛えからやめろよババア!!!」
まあ、本音はこんなもんだろう
「おい、ジャージ。こっちへ来てこのボケ押さえてろ」
「はいっ!」
同世代の大学生というコンプレックスからか、ジャージの目は燃えていた。走ってくると町田を後ろから羽交い絞めにした。バタつく町田の額にナイフの切っ先を軽く突き立てた。昨晩砥石を使って研ぎ澄ましたファイティングナイフの切れ味は抜群だ。町田の傷から細い血が糸のようにあふれ出た。そのまま切っ先を滑らしX印を描いた
「痛てぇ、何すんだよ!」
まだ暴れる町田に怒りが再燃した。
「お前は面接官にもそういう態度で接するのか?」
そう言って頭頂部の掴んだ髪の毛を根元からざっくりとナイフで切った。そのままその周りの毛も切っていき、耳の上あたりまで円形になるよう切った
「な、なにやってんだよう、やめてくれよう」
ハラハラと落ちてくる自分の髪の毛をみて一気に不安になったのか、小さな声になった町田がうめく
掴むところがなくなったので町田の耳をつかみ喉にナイフを当てる
「ジャージ、抑えるのはいいからそこの揚げ物機の横の洗面台から石鹸を濡らしてもってきてくれ」
うんうんお頷いたジャージは、よく泡立てた石鹸とともにカウンターの雑物入れに使っている大きめのナッツの缶に、水を満たして持ってきた
「判ってるじゃないか」
「へへへ」
と顔を見合わせいやらしい笑いを互いが浮かべた。もう一度ジャージが町田を羽交い絞めにする。
石鹸をもう一度よく濡らし町田の頭皮に残った髪の毛を綺麗にナイフでそり上げていった
「痛い痛い痛い痛い」
町田が悲鳴を上げるがお構いなしに作業を続けていった。言うことを聞かない犬にはしつけが必要だ

所々、刃を滑らしてしまったが、頭の上半分の髪の毛のない男が出来上がった。
ジャージが声を出して笑っている。私はジャージに町田をまかせ、石鹸を持つと洗面台に向かった
中性洗剤もあったので、それをスポンジにしみこませ刃先を何度も何度も、頭皮と髪の毛の脂が残らないよう洗った
「ジャージ、もういいぞ。戻ってていい。よくやってくれた。」
ジャージに対しては、褒めることを忘れてはいけない。町田を立たせるとナイフの切っ先でスーツの背中をつつきながらトイレへと誘導した。鏡の前に立たせる。町田はぐったりとうなだれた。すっかりおとなしくなった町田をみんなのいる場所に連れて行って座らせた。わたしは定位置に倒れた椅子を起こし座った
「町田。お前は年長者を敬う心がない。私は加害者だから仕方がないが、あのリストラされたおっさんはお前と立場は一緒で、お前の何倍も人生経験を積んでいる。言葉に気を付けろ、ガキ!」
「はい……わかりました」
町田はうつむいたまま返事をした
「顔を上げろ、そしておっさんにわびろ」
「いや、私はそんな……」
リストラが卑屈な困った顔を浮かべ目の前で手を振る
「町田」
町田が立ち上がりリストラの目の前に立ち、座ると
「おっさん、マジでごめんなさい」
と頭を下げた
「い、いいよいいよ」
とリストラは町田の頭を上げさせている。今一つ言葉使いも気に入らなかったが、今どきの若い子はこんなものなのかもしれない。やれやれ、とおもい視線を走らせると矢口と目があった。矢口も肩をすくめて困った顔で笑っている。
「よし、町田。元に戻れ」
「はい」
なかなか従順な犬になってきたじゃないか
「お前、カッパとザビエル、どっちで呼ばれたい?」
一斉に皆が顔を俯け肩を揺らせながら、必死で笑いをこらえだした。町田も顔を真っ赤にしている
「……カ、カッパで……お願いします」
その答えを聞いた途端トヨタがブッととうとう笑いを噴き出してしまった。こうなったら誰も我慢できない。全員が爆笑の渦に囲まれた。町田も自分自身がおかしかったのか一緒になって笑い出した

プルルルルルルルルルル……プルルルルルルルルルル

私のヒップポケットから突然見知らぬ電話の呼び出し音が鳴った。笑いが一瞬で止み、緊張が走る
電話を取り出し、ナンバーを見る。090からはじまる携帯番号だった。TVに目をやった。指揮所らしきパトカーの裏で一人の私服警官が携帯電話をかける様子が映っていた。
遊びの時間はおわったようだった








つづ……かないかも?


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夏の凶悪(7)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
なり続ける電話を皆が見ていた
通話ボタンを押し、耳に当てた。相手は無言だった。
私も何もしゃべらずTV画面の刑事に注目していた。Yシャツを肘までまくり上げ日焼けした精悍な顔立ちだった。一昔前の二人組の刑事が暴れまわるTVの片一方のように頭はポマードでリーゼントを崩したスタイルで決めている。
「……もしもし」
受話器から声が聞こえるのと同時に、TV画面の刑事の口がパクパク動いた。やはりこいつがネゴシエイター(交渉人)か。
受話器から耳を離すと、通話を切った。
即、電話が鳴った。しばらく焦らしてから通話ボタンを押した
「もしもし、きこえるか?私は高知県警のものだ」
「名前と階級は?」
「安藤だ。階級は警部。次はお前の番だ」
「名乗るバカがいると思うか?」
「……」
「冗談だよ。ちょっと待ってろ。」
受話器をふさぐとリストラを呼びつけて、腰のホルスターからベレッタを抜き、雑誌の並ぶブラインドに近寄った。
まだ狙撃手は配置されてないだろう。しかし、もしいれば駅ビルや青バスの中から確実に撃たれるスペースだ。
「店長!」
「なんだ?」
店長が足早に近寄ってきた。合図でブラインドを上げて、合図で下げるよう言った
「わかった」
そう言うと店長はブラインドのひもを手繰り寄せ、雑誌コーナーにしゃがみ込んだ
やけに手馴れてやしないか?しゃがむことまで指示してないのに、自らしゃがみ込んだ?
まあいい。考えすぎはよくない。バンダナをほどき、髪をまとめて後ろで括った。
「よし店長、いいぞ。上げてくれ」
ブラインドがザーッとあがっていき頭の上30cm位のところで止めさした。
「おい、見えるか?」
リストラのこめかみに銃口を当て、前へ突きだし盾にした。横から顔だけを出す
「私の顔が見えるよな?」
「ああ」
「私の生年月日は○年○月○日、現住所は高知市○○町○ー○、本名 月島灰音だ。メモしたか?」
「ああ」
「写真も撮ったな?」
「ああ」
「よし」
店長に視線を送った。店長は頷き、ブラインドのひもを手放した。一気にブラインドが滑り落ちてきた。リストラに当てていた銃口を離す
「第一の要求を言うぞ。さっきの情報の裏が取れたら、マスコミにすべて流せ」
「それが終わったら、柏田病院の田川医師を呼び出せ」
それだけ言うと、電話を切った
2人を連れて、一番奥の陳列棚まで戻った。
これからは時間との勝負だ。急いで工具箱からマイナスドライバーとペンチを取り出し、ジッポオイルの封を切ろうとするが、手が震えてうまくいかない。イライラがつのる
すっと横から店長がマイナスドライバーとジッポオイルの缶を取り上げると、ものの見事に開けてしまった
そうすると矢口が、チームワークよろしく空にしたオロナミンCの瓶にオイルを3/4ほどそそいで、さっき私が切り裂いたタオルのひもを詰めて栓をしていく。
「何で火炎瓶を作ると分かった?」
いぶかしげに矢口と店長を見た。
矢口はにやりと笑うと
「ビン、オイル、切り裂いた布。他に何を作る?なあ店長」
店長はうんうんと頷いている。
私は肩を落とし溜息をついた。困った人質だ……。
オロナミンCは5本しか持ってこなかったので、作業はすぐ終わった
「どうする?あと3本くらいなら作れるぜ。オイルが余ってる」
店長がこっちを仰ぎ見た。
「あ、ああ、頼む」
店長はいそいそとドリンクコーナーからオロナミンCを持ってきた
「あんたも飲んどくかい?」
そういって投げられた瓶を思わず反射的に受け取ってしまった。店長と矢口がゴクゴクと飲み干している
私はリスパダールの封を切って、ジュッと喉に流し込むと、苦さをごまかすためにオロナミンCで流し込んだ。
店長に空き瓶を渡す。
作業に取り掛かりながら店長がいきなり聞いてきた
「あんた、どっか悪いのかい?」
やっぱりこの店長只者じゃない
「ああ、ちょっとな。ところで店長、あんた昔なにやってた?カタギのまっとうな人間には見えないが?」
店長は最後のオイル缶を開けて、矢口に渡すとコンビニの前掛けのポケットから煙草を取り出すと火をつけ大きく一服した。
「あんた、全共闘って知ってるかね?」
おもむろに口を開いた。名前だけは知っている。まだ私が生まれる前の話だ。
「安田講堂とか、学生運動とかな。俺、いやワシは当時東京の大学に通っていてなあ。左翼思想にかぶれて、この矢口さんの先輩なんかを相手に派手にドンパチしたもんさ。投石は当たり前、ゲバ棒って後で呼ばれる角材でなぐりあったり、こうやってほら、火炎瓶なんかも普通に使ってたなあ。最後は爆弾まで作ってくるやつがいて……安田講堂でワシ達は負けて、その後のドロドロの内ゲバが嫌になって、高知に避難してきたんだけどな。」
「なるほどな」
「だから、こうやってポリ公に囲まれると、当時の血がうずいちまって、ははは」
照れくさそうに店長は頭をポンッと叩くとまた煙草を吸いだした
オイルの仕分けも済んでタオルの切れ端で封をし終わった矢口に声をかけた
「よかったな、矢口さん。あんた現役だったら店長に燃やされてるよ?」
「まったくだ、世の中見た目じゃわからんな」
矢口も肩をすくめて困った顔をしている。肩をすくめるポーズが癖なのだろう

今の時間を利用して情報収集だ
「店長、確かその学生運動のとき機動隊はガス銃を水平打ちしたよな?」
「ああ」
「あれで表に面したガラス壁、割れるかな?」
「いや、人間には堪えるがこのチェーンのコンビニに使われるガラスは大丈夫だ。ガス銃に使われる弾頭はすぐ割れるように柔らかく作ってあるからな」
「そうか、ありがとう。じゃあ矢口さん」
「ん?」
「機動隊のスタングレネード、音と光で自由を奪う手榴弾。あれってダンボールで出来てるのは本当か?」
「ああ、本当だ。手榴弾てのは、爆発より爆薬を囲う外殻の金属が飛び散って相手に刺さってダメージを与えるのが本当の使い方なんだ。だから飛散しやすいように、外側はボコボコに溝が切ってあるだろう?ただの制圧目的のスタングレネードで殺傷しては困るから、特殊なダンボールで作ってあるんだ。」
「なるほどな。つまりこの店に穴が開かない限りはスタングレネードは使えないってことだな」
「まあ、そうなるな。」
「ありがとう。最後にトヨタ」
「あ、はい」
牛乳を飲んでたトヨタが急いで佇まいを正す
「前にスカパーのディスカバリーチャンネルで見たんだが、車の燃料タンクを銃で撃っても映画やTVみたいに爆発しないというのは、本当か?」
「ああ、あれなら僕も見ました。びっくりなんですが、本当なんですよ。走ってる車に対しても同じことで、爆発は起きません。」
「そうか。よくわかった。」

必要な情報は出そろった。火炎瓶と化したオロナミンCの瓶を私、リストラ、カッパの3人で持って裏口手前に3本、入り口の自動ドア脇に5本置き、逆側にAKの2連マガジンを3つ重ねて置いた。
奥へ戻りかけた時、ヒップポケットの電話が鳴った。
鳴らしっぱなしで奥に戻り、椅子に腰かけた。全員がこっちを見ている。TVをみた。さっき「安藤」と名乗った刑事が携帯を手にしていた
電話を手に取り通話ボタンを押した
「……」
「もしもし」
いつも根負けして先に喋りだすのは安藤刑事のほうだ。






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夏の凶悪(8)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
「なんだ?医者が来たか?」
電話の向こうの安藤に向かって言った。
「いや、もう向かってるそうだからすぐに到着するはずだ」
「そうか。急がせろ。用件はそれだけか?」
「違う。人質がいるだろう?何人だ?安否を確認したい」
人質達を見まわした。
「7人だ。名前は勘弁してくれ」
実際は6人だが、一人水増ししておいた。
「……まあいいだろう、声を聞かせてくれないか?」
しばらく考えた。受話器を塞ぐと、全員を一人一人見た。
右手の電話を左手に持ち替える。空いた右手でベレッタを抜いた
「県警の安藤警部という豚が、お前らの安否を確認したいらしい」
「……」
「一人一人さっき私が付けたニックネームと体の状態だけを言って次に交代しろ。店長、スピーカーホンにするにはどうしたらいい?」
店長が身を乗り出し、なにやらボタンを押すと電話機から、外の喧騒が漏れてきた。
「なるだけ、おどおどとしてくれ。人質の役を演じてるつもりでな」
全員が頷いた。電話を塞いだ手を離す。
「今から人質一人一人に代わる」
「ああ、わかった」
安藤の声が店内に響く。店長にまずは電話を渡した
「店長です。無事です。ただ、銃を突きつけられて軟禁状態です」
「拘束はされていないのか?」
店長がこっちを見る。私は右手でベレッタを店長にポイントしたまま、左手の人差し指を口に当てて「言うな」というサインを出した。店長はうなずくと
「それに関しては言えません。撃たれます。」
「そうか」
今、安藤警部は必死で頭の中でコンビニ内の状況を把握しようと、情報を整理しているに違いない。
隣にいる矢口に電話を渡そうとする店長を左手を広げて、制するとまた口に左手の人差し指に手をやって一同を見渡した。
その左手を胸のサスペンドベルトに差し込み、煙草を取り出すと火をつけた。
パッケージをみんなに差し出すと、矢口とリストラがにじり寄ってきて一本ずつ取った。
ジッポで火をつけてやる。手でシッシと払うジェスチャーを見せると、2人とも元の位置に戻っていった。
「おい!聞こえるか?おい!」
その間も安否を気遣う安藤警部の声がスピーカホンから聞こえてくる。
「大丈夫か?おい!返事をしてくれ!」
大分焦れているようだ。煙草を吸い終わった。矢口はヘビースモーカーなのか指が焦げるくらい根元まで吸い込んで足元の灰皿でフィルターをすり潰すように火を消し、持ってきていた缶コーヒーを一口すすった。
私は店長に頷き、矢口に電話を渡すよう目で合図した
矢口は電話機を受け取ると、まだわめき声が聞こえる受話器に向かって
「ぎゃーぎゃーうるせえぞ!」
と一喝した。この馬鹿。怯えろって言ったのに台無しだ。だが無性におかしくなって必死で笑いをこらえた。
「人質の矢口だ。無事だ。」
その一喝に驚いて無言になった安藤刑事は、一瞬の間をおいて
「あんた本当に人質か?犯人の一味じゃないだろうな?」
といぶかしんだ。もう私は笑いがこらえきれなくなって、小さく肩を揺らせながら笑い声の出そうになる口を左手でふさいだ。
「さあ、どうだかな。まあ人質っていうのもそう悪くないぜ」
矢口はそう言い放つと、ジャージに電話機を渡した。
「ジャージです。こわいよ~こわいよ~。おまわりさん早く助けてよ~~」
ジャージは見かけによらず演技派だった。
「君は若いね?大丈夫か?ひどいことをされたりしてないかい?」
「髪の毛、カッパみたいに剃られちゃったよ~~こわいよ~~」
ブッと思わず吹き出してしまった。それはお前じゃないだろう。ザビエル刈りにしてやったのは大学生のカッパの方だ。
ジャージは涙と鼻水まで垂らして切々と受話器に向かって話しかけている
もういい、というように手を振るとジャージはニヤッと笑い、本物のカッパに電話を渡した
「僕が本物のカッパです」
またもや噴き出しそうになった
「なんだと?じゃあカッパ頭が2人いるということか?」
大真面目に返答してくる安藤刑事に全員が震えながら笑いをこらえた。
私は、カッパにまたシーっとサインを送った
「もうこれ以上は言えません。言うと殺されちゃうんです。今銃口が僕を狙ってます……」
そう言って電話を手でふさいだ。
「何!危険な状況なのか?銃って何で狙われてる?拳銃か?ライフルか!?」
首を振って答えるな、とサインを出し、TVをみた。動きはない。必死に何かを書き留めている安藤刑事の様子が映っていた。最近のTVの解像度と技術の発達は凄い。警察の動きが丸わかりだ。
左手を広げ、そのまま待ての合図をだすと、椅子から立ち上がりジャージに向かって
「よく見張っておけ」
と言い残すとトイレに向かった。入る前に振り返ると、ジャージは弾無しベレッタでみんなを威嚇している所だった。
トイレに入り施錠すると、急に吐き気が込み上げ、便器に思いきり吐いた。やはり水しか出てこない。
指を思い切り喉の奥まで突っ込み、無理やり吐いた。もう胃液が糸を引いて出てくるだけだった。
ティッシュで口周りをぬぐい、突っ込んだ唾液まみれの指を拭くと、改めて便器にまたがり小用を足した。
装備が装備なだけにズボンの上げ下ろしだけで大変だ。
開錠して、出てすぐの化粧台で改めて口を濯ぎ、手を洗うと顔を洗った。さっきまで後ろ髪を束ねていたバンダナをほどき、顔と手を拭き、今度は朝のように頭巾かぶりにかぶり直し後ろで固結びにした。
ヒップポケットから、リーマス、デパケン、リスパダールを取り出し、洗面所の水で飲みほした。
何事もなかったように、元の位置に戻り腰かけると、ジャージに「ごくろう」といった。
ジャージは喜んだ顔で自分の定位置に座り込んだ。カッパの電話を取り上げた。
なにやらまたギャーギャーと叫んでいる。気にせず、電話に向かって告げた
「もうめんどくさいから、あとの3人は一度に紹介さすぞ」
受話器を固く塞ぎ、リストラとトヨタに目をやった
「いいか?順番は、リストラ、トヨタ、リストラだ。3人目何て居やしないからな。リストラは一回目は普通に言えばいい。2回目は元気よく、そうだな……リストラされた会社への恨みをこめて声を絞り出せ」
リストラの瞳に火がともった。うまくやってくれそうだ。
「名前は何にすればいいでしょう」
リストラが尋ねてきた。一思案した。考えるのもめんどくさい。リストラはハゲていないがあえてハゲにした。
「ハゲ、でいけ。嫌なハゲが会社にもいただろう?
「あ、はい!」
図星だったらしく、力がこもった返事が返ってきた
「おいおい、ちゃんと使い分けてくれよ?力むのは2回目だけだからな。いくぞ。」
そう言うとリストラに電話機を持たせた
「あ、こんにちは刑事さん。私はリストラです。待遇もよく無事にやっています」
何なんだそれは?と思いつつ目で電話をトヨタに渡すように合図した。
コクリとうなづいたリストラがトヨタに電話機を渡す。
「あ、トヨタって言います。元気です。」
そこまで言ったかと思うとリストラが電話機をトヨタの手から奪い取った
「おう、俺はハゲってんだ。無理やり人質になったわけじゃねえぜ!いいか?自分からなったんだ」
豹変ぶりに焦ってベレッタの照準をリストラに合わせた
「俺はよう、別にこんな糞みたいな世の中どうだっていいんだ、今死んだっていい。なんもいいことなんかありゃしないしな。だが、犯人さんから銃を奪ってでも、お前らクソ公務員の一人はブッ殺してやりてえなあ!!」
私は立ち上がり「そこまでだ」というとリストラから電話機を奪い取って、脳天に銃口を押し付けた。
その場で電話をハンズフリーから元に戻す
「安藤さん、聞こえたか」
「ああ……」
「7人確認できたな?」
「ああ、全員無事で何よりだ。だが最後の奴は危ないなあ」
「そうだな。もしかするとこっちに寝返るかもな」
「そうならんことを祈るよ、ああ、間もなく医者が到着するそうだ、また電話する」
電話を切り、ヒップポケットに収めた
「やりすぎだ、リストラ」
銃口で脳天をグリグリと押さえつける。リストラは熱が冷めたのか、しぼんだ風船のようにシュンとなって座っていた。
銃で人を脅す場合、背中にしろ後頭部にしろ、眉間にしろ本当は相手に密着させてはいけない、という大原則がある。
剣術と同じように、銃にも間合いというものがあって拳銃の場合、約1m程度と言われている
なぜなら体術に優れた人間や護身術、武術をやっている者にとっては絶好の間合いであって、密着などさせようものなら、一瞬で奪われる。即座に打ち殺すなら話は別で、この理論はあてはまらない。
素人は5m離れたらもう動き回る人体のような的には当たらない。体ごとぶつかるつもりで超至近距離で撃つのが殺傷率を高めるポイントとされる。

私はその原則に乗っ取り、銃をリストラからゆっくり話すとホルスターに収め、椅子に戻って腰かけた
その瞬間世界が揺れた。何時もの眩暈だ。ガタンと音を立てて椅子から落ちた。
くそっ!こんな時に……目の前がグニャリと歪み身体がコールタールの海に沈みこんでいく感覚。
目の前が真っ暗になった。






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夏の凶悪(9)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
犬が顔を舐めるような感触で、うっすらと意識が戻ってきた
目を無理やり開けると、クリーム色の天井が見えた。一瞬自分がどこにいてどういう体勢なのかがわからなくなる。
視界の隅でカッパが濡れたタオルで私の顔を拭いていた。
身体を起こした。首と肩が痛い。周りを見回した。6人の男たちの心配そうな視線が痛かった
寝転んでいた場所を見ると、枕替わりのつもりかスーツの上着が畳んで置いてあった。
Yシャツの格好になって片手に濡れタオルを持ったカッパを見て、カッパのスーツだろうと見当をつけた。
はっとして、腰に手をやる。ホルスターにベレッタは収まっている。だが肩にかけてあったAKがない。
周りを探した。ない。また嫌な汗が噴き出てくる。
「そう焦りなさんな。」
矢口がジャージを指差した。ジャージを見ると、これだけは渡してたまるもんかという形相でAKをつかんでいた。
「ジャージ、銃を守ってくれてたのか」
頷くジャージ。こっちに向かって両手で捧げるように、AKを差し上げた。
「ありがとうな。」
ジャージから銃を受け取る。カッパを見た。
「お前が私の世話をしてくれていたのか?」
「ええ、ま、そっすね。汗とか超凄かったし」
「そうか。ありがとう。」
「いや、まじびびったすよ。いきなり倒れるし」
はっとした。
「私が倒れて、どれくらいたつ?」
「ん~5分から10分じゃないすかね」
「電話は鳴ってなかったか」
「あ、一回なってたけど切れちゃいましたよ」

停まりかけていた記憶を猛スピードで巻き戻し、再生し直す。これからのアクションプランを組み立てる。
知らず知らず煙草をくわえて火をともす。矢口と目があったので、パッケージを投げてわたした。
矢口は2本抜き出すと1本は耳に挟んだ。そのままパッケージをリストラに投げ渡す。リストラは1本抜くと私にパッケージを持って返してきた。ジッポも同じように回した。

「しかし、なんで皆そろいもそろって逃げなかった?特にカッパ、お前なんか恨みたっぷりだろう?それなのに私の世話なんかして」
そこが一番の謎だった。カッパを見る。
「いや~俺いじめられっ子で、今までいいこと何てなかったんすよ。1浪してようやくFランクの大学受かって、大学デビューだ!なんて髪も染めてチャラい格好して自分変えようって思ってたんすけど、人間そう変われるもんじゃないっすね。大学でも3年間一人ぼっち。マジ最低でしたよ。で、面接も何社も落ちて、結構どうでもいいかんじで。それに月島さんでしたっけ?あんたが倒れて、マジ逃げようかと思ってたんすけど……汗みどろになって呻いてるの見てなんかほっとけなくって。まあ、髪型はどうせなら坊主にしろよって感じなんスけどね」
そう言って照れたように背中を向けると、小走りでカウンター内の手洗いで、タオルを洗って絞り、戻ってくると「それに、俺の中の何かを変えてくれるような気がしたんすよね」
といいながら私に手渡した。受け取ったタオルで顔を拭いた。

ジャージが口を開いた
「無事でよかった~。僕はちょっと頭の回転が鈍いらしいんです~。でも犯人さんは、僕を信用していっぱい使ってくれたし~、人に信用されて使われるって、気持ちいいなあ~と思って。ずっとお母さんやお父さんに迷惑かけてたから~、もうここで僕が死んでも生きてても、かける迷惑は一緒だから~。別に犯人さんに殺されるのは何とも思ってないよ~。最後に人の役に立てるんだからね~」
空の銃を持たせていることに、胸が少し痛んだ。

「私はもうこの年でクビになった男です」
声の主はリストラだった。
「家族からの冷たい視線。毎日ハローワークで変わりもしないコンピューターディスプレイを見て、昼は公園でパンをかじって、公園の水でのどを潤す。そのままベンチに座って日が暮れるのを待って、家に帰ると娘や女房にはゴミのように扱われる。居場所がないってわかりますか?ここなら警官隊に殺されても、月島さん、あなたに殺されても家族には保険金が下りる。むしろ電話で私の首を切った前の会社の人事部のハゲを呼び出して、月島さんの銃で打ち殺したい気分なんですよ」

「僕も一緒です」
割り込むようにトヨタが喋りだした。
「月島さん、社畜ってわかりますか?」
「ん?どういう字を書く?」
「会社の社に、家畜の畜です。まさにうちの会社なんて、社員を家畜の如く扱うんです。人間以下です。やれセールス成績だ、クレーム処理だ、朝9時に出勤して夜は24時近くまで働きづめで、それでも車が売れないと合同ミーティングでいちいち名前を挙げられ、みんなの前に立たされ反省文を読まされるんです。もういやだ。できることならリストラさんと一緒で、何かデカいことやってやりたいんです。」
わかる気持ちと、ただの愚痴じゃないか、という気持ちが交錯する。

「リストラ、トヨタ、言っておく。お前らは弱者だ。もちろん私も弱者だ。弱者は必ず強者に食われる運命にある。
それが嫌なら、戦え。喰らいついてやれ。私はここで最後まで戦う。理不尽な社会相手にな。
お前らは最後まで戦えるか?私についてこれるか?」
リストラ、トヨタ、2人ともが力強く頷いた
「そして、すべてが終わった時にまだ無事だったら、今日のことを思い出して社会で戦い抜け」
カッパ、ジャージ、リストラ、トヨタが頷いた。

耳に挟んだ2本目の煙草に、1本目の煙草の残り火を移しながら、矢口は不敵な笑顔を浮かべていた
「矢口さん、あんたはなぜ残った?あんたなら人質皆を先導して脱出できたはずだ」
目をつぶって2本目の一服を吸い込むと、ゆっくり煙を吐き出しながら矢口は答えた
「面白いからな。こういう生の現場で、犯人側ってシチュエーションは。体験してみたいって言うのが人間の性だろう?それにヤメデカって言ったろ。こいつらがお前さんを介抱してる姿を見てな、ストックホルムシンドロームってのが実在するのか、もっと見たくなったのさ。もっとも俺もはまってる口かもしれんが。まあ、警察がどう動くかぐらいはアドヴァイスできるはずだ。精々気張ってみな」
ニヤリと笑ってまた煙草を吸った。

店長を見た。
「言ったろ?警察には腹に一物もってるんだよ、ワシは。ワシの娘ぐらいの歳の子が、警察相手に大立ち回りしようってんだ。こりゃほっとけないだろう。女を先に逃がすあんたの根性も気に入ったしな。それに……」
「それに?なんだ?」
「ワシは一応この店の店長だからな」
その一言で6人に軽い笑いが沸いた





つづく





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夏の凶悪(10)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
店長に再度説明を聞いた。店の窓ガラス部分は縦ワイア入りの強化ガラスにガラス飛散防止の粘着シートを挟んで、ポリカーボネイトの一枚ものを密着させ、一番店内側には薄い無色透明に近いUVカット機能付きの偏光シートが張られていること。車の衝突や、タイヤのはねた小石(これは油断ならない。後続車両のフロントガラスに当たった場合、平気で突き破る威力がある)も全てガードできる高価なものなのだそうだ。また冷暖房効果が極端に上がるため、このチェーン店では5年前複合ガラスの技術が市販されだしてから順次取り換えたそうだ。
ただし自動ドアーだけは機能上、そのガラスが使えず、メーカー製の強化ガラスにガラス飛散防止フィルムを貼っただけのものらしい。
TVモニターを見ると安藤刑事の横に、見慣れたG病院のT医師が白衣を脱いだ、ポロシャツとスラックス姿で、小脇に封筒を抱えている。事前に頼んでおいた私のカルテを持ってきているのだろう。
店長に粘着テープとマジックペンを売り場から持ってこさせた。
店長に電話を渡す。
「私には使い方がわからん。ここの床に安藤警部の電話の番号を書いてくれ。」
店長は、器用に電話を扱い着信履歴から安藤の携帯番号を見つけ、床に書いてくれた。
書き終わっても何かまだ電話をいじっている。しばらくして私に電話機を手渡すと
「ここの【短縮】っていうのを押して、ダイアルの①を押せば、あの刑事さんにつながります」
「そ、そうか。ありがとう」
普段から電話など滅多に使ったことのない私は、そんな機能もあるのかと驚いた
自宅にはADSL専用回線しか引いてない。パソコンのメールのやり取りで今は何でも取引できる。
かかってくる相手もいなければ、かける相手もいない。電話はいらないツールだった。
どうしてものときは、忘れないように左腕にTATOOした電話番号に公衆電話からかけるだけだった。

わざわざ人質たちの安否確認の電話の取り次ぎ時間を引き伸ばし、人質の位置関係をわからないようにした
こちらからは一切コンタクトを取らなかった。
向こうは炎天下、こっちはエアコンが効き、飲み物食べ物には不自由していない。
人質たちは、一様に協力的だ。心配と言えば自動ドアーと裏口か。金融機関のようにシャッターが閉まらないのが痛い。
無いのを承知で店長に聞いてみた。
「店長、まさかとは思うけどこの店、シャッターとかないよな?」
「あるよ。」
「え?」
驚いた。盲点だった。
「あ、でも普通の全面シャッターじゃなくて、わかるかなあ……ド忘れしちまった。あの鉄格子みたいなステンレスのバーが並んでるやつだ」
なんとなく街で見かけたことがある気がした。
「ああ、視界もちゃんととれるやつだよな?自動ドアーにもそのシャッターは降りるか?」
「そうだ、そのタイプのシャッターだ。もちろん自動ドアーにも降りるぜ。3つのシャッターが並んでて、ドアに一個、ガラス面に2個だな」
「操作盤はどこにある?」
「店内と、屋外に一個ずつだな。この店は24時間営業だからシャッターなんか使わないんだが、台風でやばいときなんかは屋内から操作して閉めて、裏口から出る。入るときも一緒だ。屋外のはキーを使わないと操作盤の入った箱が開かないようになってる。」
「バールでコジたら開くんじゃないか?」
「いや、どうだろうな。一回どっかの悪がきがバールか何かでコジたらしくて、蓋がひん曲がりはしてたが、鍵そのものは何ともなってなかったな。」
「外のは、どこに設置してある?」
「あの自動ドアーとガラスの間。今ちょうどコピー機が置いてあるところだ。あそこは壁だからな」
「そうか……ありがとう」
向こうがあれからコンタクトを取ってきていない。焦らす作戦なのだろう。
だが状況の利は5分と5分か、若干こちらに傾いているかのように思えた。ガラスに一番近いコーナーに行く。
化粧品や雑貨のコーナーだ。今どきのコンビニはいろんな品物が揃っている。カゴを持ち、まずは月刊漫画雑誌のなるだけ厚いものを5冊カゴに放り込んだ。肩が若干痛んだ。さっき倒れた時に打ったのだろう。
コーナーの奥に行くと季節柄か、サングラスと帽子が無造作に並べてあった。スポーツタイプのサングラスを7個と、キャップ帽を2個取り、皆の元に戻った。
「そろそろショータイムが始まる。この中で持病持ちはいるか?」
「ニコチン中毒」
矢口が不敵に冗談をかました。
「レジの裏の煙草の陳列棚から好きなだけ取ってこい。あとめんどくさいからライターもな」
矢口は手を挙げるとスタスタと歩いていき、すぐ戻ってきた。私の銘柄を見ていたのか1パッケージ、セブンスターと、ライターをリストラに投げて渡した。椅子に座ると悠々とセブンスターのパッケージの封を切り、火をつけて吸い始めた。
「後は居ないな?」
全員が頷く。
「よし、じゃあ今から全員用を足して、新しい飲み物を持ってこい。10分待つ」
それぞれがいよいよか、というように引き締まった顔になっている。ゆっくりと立ち各々がトイレやドリンクコーナーに向かった。
私は古いパッケージから煙草を取り出し、火をつけるとゆっくりと煙を楽しんだ。
もう出すべき水分は出し尽くしているような気がする。
TV画面をじっと見る。NHKのカメラマンとリポーターはそのままの配置だった。
もう一度遠目にしか見えないその顔をじっくりと観察して記憶した。ふと気づき、音声担当の顔を見ようとしたがしゃがんでいるのか車体の陰に隠れて見えなかった。

やがて全員が揃った。全員ミネラルウォーターを持ってきていた。ジャージが2本持ってきたペットボトルのうち1本を私に無言で渡した。
「私はいらんが?」
不思議に思いジャージを見上げると、ジャージの後ろからカッパが
「姉さん、ぜってー飲んどいたほうがいいっすよー。さっき倒れた時脂汗っつーの?超ヤバイぐらいでてたもん」
と声をかけてきた。いつの間にか「ババア」から「姉さん」に呼称が変わっている。ジャージもコクコクとうなずいていた
「……ありがとう」
というと封を切って一口飲んだ。うまかった。それを合図のように皆、これが最期の水であるかのように惜しそうにチョビチョビ飲み始めた。
頃合いを見て、全員に向かって言った
「全員身分証明書を出せ。カッパ、お前は免許証あるか?」
「はい」
「よし出せ」
ジャージを除く全員が財布に入れていた免許証を私に手渡した
「ジャージお前は?」
「いや~~何にもないです~すみません」
泣きそうになって答えた。
「住所は言えるか?電話番号とか」
がっくり肩を落として、うつむくと首を振った。
他の人質たちが気の毒そうにジャージを見た。こいつも典型的な弱者だ。
「わかった。もういい。嫌なことを聞いてすまなかったな。」
私も暗い気分になりうつむいた。

この雰囲気にのみこまれちゃだめだ。うつむいていた顔を天井まで上げて深く息を吸い込んだ
「じゃあ、この籠の中のサングラスを取ってかけろ。カッパとジャージは帽子もな。」
自分が目を付けていた、米軍のアイウェアもどきの薄黄色いサングラスを取り、かけるとカゴを店長に回した。
他の6個はなるだけ色の濃い奴を選んである。
全員がサングラスをかけ終り、カッパとジャージが帽子をかぶるとギャング団のようになってしまった
カッパに私の枕替わりにしてくれたスーツをパンパンとはたき、着るように促した。
足元から先ほど火炎瓶をつくるのに切り損ねた雑巾を2枚渡すと、雑誌を5冊束ねてその上に雑巾を2枚重ねて粘着テープで固定するよう命令した。
店長がその作業に取り掛かったとき、ふと気づいてレジ横のキッチンコーナーに行ってみた。
シンクの上の棚を開けると、やはりあった。洗いたてのタオル。7枚とって席に戻ると、店長は早くもその作業を終えていた。
タオルを一枚取ると、覆面のように鼻と口を覆い、後ろで固く縛った。
「全員こうやってタオルを巻け。ガス銃で催涙弾を打ち込まれたらペットボトルでその覆面になったタオルを濡らして、タオルの上から鼻と口を掌で抑えて這いつくばれ。そのままトイレコーナーへ逃げ込め。」
「はい」
くぐもった声で返事が聞こえた。
「あと銃撃戦になったらなるだけ棚の真下に這いつくばって、じっとしてろ」
「はい」
またもやくぐもった声。
「最後に。私か矢口さんか、店長はポリがスタングレネードやガス銃を発射しかけたら『グレネード!』って叫ぶから、聞こえたら一斉にうつ伏せに伏せて目を力いっぱいとじて、両耳を両手で固く塞げ。自分の中でゆっくり5つ数えたら目を開けていい。わかったな?」
矢口と店長が心得たというように頷いた。
「しかし、これじゃまるで俺たちもテロ組織の一員みたいだな」
矢口が全員を見回して笑った。






いつのまにか小説ブログになってますが……つづきます……


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