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猫を殺(と)れ

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
雨の上がった繁華街
酔客たちを押しのけて、小路に入った
ロングのファーコートがかすかに弾いていた雨粒を手で払った
履きなれたヒールが、人気もまばらな小さいバーやスナックのひしめき合ってる路地に、軽い足音を響かせた。
目深にかぶったツバ広の帽子をクイっと前だけ上げ、薄いサングラス越しに目当ての店を探した
重厚なリベットがいくつも打たれた鉄製扉には「MEMBER'S ONRY」の文字と髑髏が浮き出ている
扉の上のネオン管は壊れかけで不定期な明滅をくりかえしていた
筆記体で「TOMMY'S」とブルーにチカチカという音を出しながら、入り口に不規則な影を作った
来るものを拒むその扉のドクロの下の鉄の輪を持ち、扉に3回打ち付けた
しばらくするとドクロの黒く空いた眼窩の部分がガシャッという音と共にスライドして一対の目と視線を交わした
内側からロックを外す音が3回聞こえた後、扉が開かれた
「やあ」
体格のいいスキンヘッドの男がそれだけ言って私を中に通すと、また扉にロックをかけた
店の中は暗く、5人ほどが座れるカウンターと4人掛けのテーブルが2つ
カウンターに3つ、テーブルに1つずつ蝋燭が燈っていた
BGMは無かった
カウンター奥の酒瓶の棚の一番下にアクアブルーの蛍光灯が光っている

「コートは?かけるかい?」
「このままでいいよ、トミー」
そう言ってカウンターの端から2番目のスツールに腰を掛けた
トミーはそのまま、手持無沙汰気にカウンターの中に入った
「何飲む?」
「冷えたミネラルウォーターにレモンを絞って」
無言で頷くとトミーはキューブアイスをミキサーにかけクラッシュド・アイスにし
冷凍庫から取り出したロングタンブラーに砕かれた氷をきっかり1/3いれ
スクイザーを使い、半切りにしたレモンを絞ると、グラスに足した
これだけは常温なのか、コンテナからミネラルウォーターの瓶を取り出すと
栓を抜き、グラス8分目でぴたりと止めると、マドラーで優しくミックスした
手のぬくもりが伝わらないように、指でつうっとカウンターを滑らし私の前に持ってきた

グラスから出る湯気が露にならないうちに飲むのがトミーへの礼儀だろう
一口目は口を潤すだけ
二口目はゴクリと音を立てて飲んだ。うまかった。
腰から巻いたソムリエエプロンで洗った手を拭く姿が様になっていた
「トミー・ザ・ボマーも今じゃバーテンダーか」
「懐かしい響きだよ、ファナティック・ハイネ」
「もうファナティック(狂瀾)じゃないよ」
トミーは肩をすくめただけだった

トミーと私はあるPMC(Private Military Company)で同じ部隊の同じチームだった
紛争地帯や戦闘続行中の地域での要人警護が主な任務だったが、敵対人物の暗殺、軍事施設の破壊など、オーダーはヘビーでタイトなものばかりだった
契約期間は3年。途中除隊は違約金(日本円で約800万円)を払うか、死ぬかだった
私が初契約の時、トミーは契約更新をしたばかりだった
戦場でしか生きられない人間がいる。トミーもそうだった
私達のチームは5人で編成されており、トミーは爆発物、爆薬のプロフェッショナル。
そしてドライバーも兼任していた
遠距離狙撃専門のライト。彼は余興で立ったままの姿勢で70m先の50セント硬貨をライフルでぶち抜いた。
測定員、無線、通信機器対応のシュン。彼の仕掛けた盗聴器は今でもあの砂しかない国から電波を発している
メディックのミッフィー。彼女は生まれつき口がきけなかった。外科医師として抜群の腕を持っていたが、悪い薬に手を出してしまいバッドトリップの最中、口を×印にナイフで切ってしまった。その縫い痕がある子供用キャラクターに似てるのでミッフィーと呼ばれていた。
私はナイフと消音機付き小火器を使っての、無音殺人(サイレント・キリング)を担当していた
対象に最も近づかなくてはいけない職で、部隊内でも数少ない職の一人だった
ミッションの後、ハイになって血濡れの顔でケラケラ笑う癖のせいでついたあだ名が「ファナティック」だった

3年の任期満了時、チーム全員が生き残っていたのは私達ともう1チームだけだった
私とミッフィーは契約更新をした。
お別れ会でもしようじゃないかと言う事で、砂漠の町のバーに繰り出した

ライトは、作家になり、ベストセラーをだし、年老いたママを楽にさせてやりたいといい、グラスを空けた
シュンは貯まったお金で、トーキョーのシンジュクに店を出す、と言ってフライドポテトを口に放り込んだ
一緒に残留を決めたミッフィーはグラスの水に指を浸し、カウンターに「ハイネ、守る」と書いた
トミーが除隊するというのは意外だった
他の3人が散々酔っぱらって机に突っ伏したあと、独りでカウンターに移りグラスを空けるトミーの隣に座った
私は世界中どこに行ってもペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいた。
水は怖い。グラスに注いだ水は清潔でも、氷が怖い。
酒の飲める他の4人も、必ず缶ビールかストレートで飲んでいた。

何も言わないトミーの隣で私はマルボロメンソールを吸った
イスラムの国でも治外法権のPMCじゃ何でも金次第だ
トミーが手酌でスコッチのボトルから1ショットだけ注ぐと、唐突に口を開いた
「すまない、ハイネ。俺はこの辺で降りる」
「うん。」
「国に嫁がいる」
「うん。」
「ガキができたそうなんだ」
「そうか。」
「そのガキが……その、まあ病気なんだ」
「トミー」
「ん?どうした」
「ドンパチしなくても、今からまた戦争だな」
「ああ。ああ、戦ってくるさ。」

そして3年の月日が流れた
ミッフィーはもう居場所をここに決めたようだった。次の更新をした。
私はあまりにも働きすぎて、面が割れてしまい、砂漠の戦士たちのリストに載ってしまった
部隊長は、更新を認めずそのまま除隊と言う形になった
最期に退職金と一緒に、電話番号だけが記された紙切れを渡された
電話番号を記憶し、隊長室の灰皿で紙切れを燃やした
部屋に戻ると私物を整理した。段ボール一箱に満たなかった
それを抱えて、砂漠の空の下ジッポオイルをぶちまけて火をつけた
煙が立ち上って夜空に消えていった
ザクッザクッと砂を踏む音で、後ろを振り返るとミッフィーが立っていた
6年間の思い出が灰になり、炎が最後の光の粒になるまで2人でそれを見ていた
愛用していたナイフを手渡し、さよならのキスを頬にした


明くる日は、PMCの職員がハンビーで空港まで送ってくれた
もちろんビザなどとっくに切れているので、軍用機で国外脱出するしかない
米正規軍の負傷兵士や遺体袋と一緒に乗るのは気持ちのいいものではなかった
C-130は何度か米施設に降り立ち、給油を繰り返し、最後は日本のオキナワに着陸した
強化アスファルトの滑走路は、砂のように沈み込まず違和感を覚えた
様々な書類の審査があり、ようやくゲートをくぐりフェンスの外に出た
温度はあの国よりずっと涼しいのに、湿度の高さで体中に粘っこい汗が噴き出た
即タクシーを呼び止め「ナハエアポート、ダラーオーケイ?」と言うと
「OKOK]と返事が返ってきて車は急発進した
日本のタクシーは不思議だ。ドアまで開けてくれる。
那覇空港に着き運転手は「円」でお釣りをくれた

ターミナルに入ると公衆電話を見つけさっきもらった「円」硬貨を適当に入れ
記憶しているナンバーをコールした。国際通話だと思っていたのに国内通話だったのにまず驚いた
6コール目で相手は出たが何もしゃべらない。ためしに
「ファナティック」
とつぶやくと、受話器の向こうから懐かしい声が聞こえた
「ボマー」
「トミー!日本にいるのか?」
「ああ、久しぶりだな。電話があったという事は除隊したのかい?」
「まあ……そんなところだ」
「シュン、覚えてるか?」
「ああ。」
「あいつ、トーキョーに店出すって言ってたろ」
「ああ、そんなこと言ってたな」
「そのつてで、こっちに来て2年になる」
「そうだったのか」
「ガキと奥さんは?」
「……まあまあってところだ」
「そうか……。で、用件は何だ?電話番号残したのは、懐かしがるためじゃないだろ?」
しばらく間が開いた
「ハイネ、お前日本で働く気はないか?行く当てもないんだろう?」
「黒い仕事か?白い仕事か?」
「黒。」
知らず知らずにため息が出た
「嫌なのか?」
「いや、そうじゃない。引き受けるよ。だが、ここからどうすればいい?私には右も左もわからんぞ?」
「そうか、やるか。」
「ああ。」
「じゃあ、空港から動かずにそこら辺のベンチで寝てろ。すぐ案内を送る」
「は?」
「砂漠じゃどこでも寝てただろう」
「言いたい放題だな。トミー、お前がリーダーって事でいいんだな?」
「そこらへんはちょっと複雑なんだが……まあ信じてくれ」

そこまで言うと一方的に電話は切れた



(つづく)




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Response: コメント: 8  トラックバック: 0  Edit 01 13, 2012 Back to top
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作中人物名の引用について

まことに勝手ながら、作中登場人物にブログ村でお知り合いになった方々のお名前を使わせていただいております
なにとぞご容赦ください

CAST

ハイネ: 灰音
トミー: 梅沢トミヲ様
ライト: 禮人(らいと)様
シュン: 瞬様
ミッフィー:miffy様

トミーはいつでも灰音の味方だよ。

えぇ!私だったの?!Σ(゚д゚;)
うふふ。
バッドトリップ~

超、早く続き読みたいです。
ツイッターで更新見て、すぐ読んだんだ。

何故か、大沢在昌凄く読みたくなった。
読みながら寝ようかな・・・

うわ、吃驚しました
なんか嬉しい気持ち、ありがとうございます(笑)

悪い予感が・・・

何か、悪い予感がするのですが、思いすごしでしょうか?

三毛ニャンの

思い過ごしぢゃない気がする( ̄ー ̄)

これは身に余る名誉。
日頃、人様の御名前を拝借することはあれ
その逆はないので、新鮮な感覚であります。

皆様へ

お名前使わさせていただき本当にありがとうございます。
ネタバレしたり、自分の中での構想のキャラクターに影響がでるのを避けるために
まことに勝手ではございますが、しばらくの間個別の返信は差し控えさせていただきたいと存じます
でも、応援メッセージ何か頂けるとうれしいかな(笑)

あと、誤字脱字なども秘密で教えて下さると嬉しいです。
つまらない自己満足のストーリーですが、流し読みでも読んで下さると幸いです
非公開コメント(非公開にした場合、匿名性を尊重しレスしない事があります)

Plofile

灰音



name:灰音(ハイネ)

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