< 2017.05 | 2017/06 | 2017.07 >
123456789101112131415161718192021222324252627282930      

猫を殺(と)れ (3)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
次に気が付いたのはベッドの上だった。
何かおいしそうな匂いがして起きた自分が情けなかった。
首の後ろに鈍痛がしたが、何とか立ち上がることができた。
はっと気がつくと、人民軍服はピンクのパジャマに変わっていた。
こんな軟弱なもの……、そう思い着替えようとしたがどこを見ても見当たらない。

気恥ずかしくも、空腹には勝てなかった。もう2週間以上食べてない。
匂いのする方に歩いて行った。昨夜の老人が何かを調理してた。

「起きたかね?」
こっちを振り向きもせず気配だけを感じ取って声をかけてきた。
「何故私を助けた?私の服はどこだ?」
「まあまあ、もうすぐ支度ができるからテーブルに座っていなさい、はっはっは」
背後からチョーキングで首をへし折り殺そうかと思ったが、昨夜の事を思い出し、やめた。
おとなしくテーブルについて待っていると、土鍋で炊いた「白米」のお粥と小皿にたくさんの薬味を乗せた食卓が整えられた。
「さあ、食べよう」
老人は自分で小鉢に粥を盛り付け、薬味を振りかけた。
「どうした?食べんのかね?心配しなくても毒などは盛っとらんよ。殺す気なら昨日殺っとるわい」
また昨日の失態を思い出し、うつむいた。
「いいから、食べなさい。もうだいぶ食っておらんだろう」
「……はい。」
白米しかはいっていない粥など初めて食べた気がする。うまかった。
胃袋に染みわたって、活力がわいてくるようだった。
そうすると、心に余裕が生まれた。
「ご老人、ゆうべのアレが功夫(クンフー)と言う奴ですか?」
「急に敬語だのう、はっはっは。それにしても早速、武術談義かね?若いってのはいいことだのう、はっはっは」
「いえ……すみません。」
「まあ、助けられた礼ぐらいはするもんじゃの。ここは儒教の国だからの。」
他人に礼をすることを忘れるほどの生活だったのかと、改めて思った。
「ま、ええよ。食事が終わったらお茶でも飲みながら話をしよう。」
「はい……。」
食事がすみ、今度は食器を下げるのを手伝った。
やがて老人がお茶を持ってきた。
何度も湯呑に注ぎ、また戻し、適度な所で湯呑に満たしたお茶を私に差し出した。
「うん。昨日使ったのは八極拳という武術の一つだよ。」
「はい……。」
「気を練るといった長い修行の末得られる他の中国拳法とは若干違ってね。何度も何度も基本動作を繰り返し体に覚え込ませる。」
「肉体的な鍛錬、ですか」
「だから職業殺手(プロの殺し屋)はマスターしてる人も多いね」
老人は一口茶をすするとまた口を開いた。
「君は第二次世界大戦って知ってるかね」
「はい。」
「うん。その時このオイボレは、満州で生まれ、中国に渡り拳法の修業を積んでたが、俸給目当てに日本に出稼ぎに行ったんだ」
「はあ。」
「戦後、日本人の妻を娶って男の子が生まれた。妻と子供は日本に帰化したが、私は離婚し帰国事業で韓国に戻り、そこからまた中国で暮らし帰化したというわけだ」
「なんだか……波乱万丈と言いますか……。」

また老人はズズっとお茶を飲んだ
「一子相伝と言う言葉を知っているかね?」
「ああ、はい。なんとなくは。」
「武術を学んだものとっては、脈々と受け継いでいけない絶対の教えなのだよ」
「宗家からの血脈が途絶えるという事ですか?」
「まあそうとも言えるが、自分の得た知識を誰かに残したいというだけかも知れんの、はっはっは」
「では、あなたも息子さんに?」
「バッチリじゃよ。3歳のころから英才教育じゃ」
「おそらく孫も父親の影響で、ワシには及ばずとも頑張って修行してるだろうな」
「そうですか……」
「ところでお嬢ちゃんの名前を聞いてなかったな?何と言うんじゃ?」
しばらく考えて答えた
「ハイネと名乗ることにします。」
「そうかそうか。ハイネか。いい響きじゃの。ワシの名はイルカ。代々このイルカ姓を名乗ることになっておるが、もしお前さんがイルカとう人物にあったら、逃げろ。とにかく逃げたほうがいいじゃろうな」

さっきまで暖かったお茶が急に冷たくなったように感じた。

「勝てませんか?」
「まあ、十中八九勝てんじゃろうな」
「……」
「昨夜何故こんな年寄りに負けたと思うかの?」
「……いえ、さっぱりです」
「お嬢さん、いやハイネかの。ハイネの攻撃は申し分なかった。眼球、喉、股間、どこも鍛えられん急所ばかりを正確に、申し分ないスピードと威力で攻撃してきた」
「では、なぜご老人には躱せたのですか?」
「そうじゃのう……人民軍には何年いたのかの?」
「16歳から23歳までの8年程ですが……」
「うむ。しいて言えば教科書通りなのじゃよ」
また私は、うつむいて黙り込んでしまった。
確かに軍事教官の言うとおりの「型」を日々鍛錬し、模擬実戦でもいい成績を残した。
それが本来の実戦では、逆にあだとなったのか……。

「どれ、お茶が冷めた様じゃの。入れ直すとするかの。」
そう言って老人は急須を持って立ち上がり、台所に向かった。

(つづく)



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 躁うつ病(双極性障害)へ にほんブログ村 介護ブログ 親の介護へ

web拍手 by FC2

Response: コメント: 0  トラックバック: 0  Edit 01 14, 2012 Back to top
ブログパーツ

Comment

非公開コメント(非公開にした場合、匿名性を尊重しレスしない事があります)

Plofile

灰音



name:灰音(ハイネ)

Entry & comment
TOP 10 Ranking
Updated Information
あくまでも、私個人の好んで購読するブログさんの更新情報で、いわゆるリンクとは違いますので、ご了承ください。またクリック先でのトラブルについては一切当サイトは関知いたしませんので、自己解決をしてください
Category
QR
QR