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猫を殺(と)れ(4)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
何故だ、何故だ、煩悶しているうちに老人が急須に新しい茶葉と湯をいれてテーブルに戻ってきた。

「まあ、つまらんことを聞く様じゃが、ハイネはこれからどうやって生きていくつもりかの?」
「はい。自分、いえ私には殺人技術しかないので、それを生かそうかと……。」
「ふむ……。難儀な生き方よのう」
さっきと同じように老人は急須から湯呑に茶を注ぎ、また戻し、適度な色と味が出るまでそれを繰り返すと、私の前に差し出した。
「じゃが、今のままでは仕事にありついたところで、すぐ命を落とすぞい」
「?」
「殺気が服を着て歩いているようなもんじゃわい」
何も言い返す言葉がなかった。
思い切って尋ねた。
「どうすれば、強くなれますか?」
「はて。今のままのお前さんのような殺手を雇ってくれるところがあるかのう。」
「……私に功夫を教えてください……。」
テーブルに頭をこすり付ける勢いで頭を下げた。
「礼が足らんの。お前さんの国では人に物を頼むときテーブルで頭を下げるのかの?」
はっと気が付き、椅子から飛び降りると床に正座し、膝の前の床に両手の親指と人差し指で三角形を作ると、そこに鼻をうずめるように頭を下げた。
視線は床を見ているだけだったが、何やらガサゴソと音がするとマッチを擦る音が聞こえ、ふうっという吐息と共に煙草の匂いがした。
長く続いた沈黙を破るように老人が口を開いた。
「わしのは功夫(クンフー)ではない。あれは何十年と鍛錬を積んで身に付くかどうかのものだ。」
口調まで変わっている。
「ましてや自己鍛錬などという生易しいものではない。お前は若い。さっきも言った通り、基礎的な技やスピード、威力はもう既に備わっている。」
「……」
「だが実戦での『殺し合い』に何が大切な事なのかわかるか?」
「……いえ、皆目見当がつきません。そこを学ばさせて頂きたいのです」

また部屋の中が沈黙と煙草の匂いに満たされた。
昨夜打たれた膝の裏に痛みが走る。
もったいつけやがって。こっちは礼を尽くしてるんだ。早く答えを教えやがれ。

「ほれ、また殺気が漏れ出してきておる。」
「……」
「わしは弟子はとらん主義だが、1年。1年なら小間使いとしてお前をつかってやろう」
がばっと顔を上げた。にこやかな老人の笑顔が浮かんでいた
「ありがとうございます」
再び頭を下げた。
「もういいぞい。テーブルに座って茶でも飲むがええ」
口調が元に戻っていた。
「はい。」
「敬語も使わんでええ。わしはお前さんの事をハイネと呼ぶが、ハイネはわしの弟子ではないので師父とも呼ばんでええ。今ではイルカの名も孫の代に譲った。ジジィとでもよべばよかろうて。はっはっは。」
そう言われても躊躇した。
困り果てながらも、ボソっと
「おい、ジジィ。」
と聞こえるか聞こえないかぐらいの声でいってみた
「なんじゃ、ハイネ。声が小さいぞ」
「おい、ジジィ!」
「なんじゃハイネ!」
照れくさかった。
「私は料理と言うものをしたことがない。あと、このパジャマは何とかならんのか?」
「アホウ。料理はわしの趣味じゃ。このあたりのどこの店に入っても厨房に立っとるのは男じゃ。食事は全部わしが作るわい。それとな、お前の来てた北の軍服は洗うたら全部グズグズになって溶けてしもうたわ。なんちゅう素材と縫製じゃ。ちっとこっちへ来い!」
先々と歩くジジィのあとを急いでついていくと、わたしが今朝まで寝ていたベッドルームだった。
寝ぼけていたのと体の痛みで気付かなかったのだが、見事な作り付けの整理ダンスが壁際にあった。
「ほれ、開けてみい。」
恐る恐る開けてみると、女性物の衣装がぎゅうぎゅうに押し込んであった。
職業殺手として相当稼いでいたのであろう。
「いや、息子の嫁に送ろうと思っていたんじゃが、嫁の奴『中国製』は要らんとぬかしおった。」
そう言いながら一番下の引き出しを開けると、白、赤、黒の艶も鮮やかな下着類が詰まっていた。
ジジィは一枚のパンティを取り出すと両手でピロンと広げ
「ほれ、これなんかシルクじゃぞ、シ・ル・ク!」
「エロジジィ!」
悪態をついてジジィからパンティをひったくると綺麗に丸めて仕舞うと引き出しを閉めた。
「ほう。一応恥じらいもあるか。いい傾向じゃ。好きなのを着るがええ。」
はぁ……。深いため息をついてベッドに腰掛けた。
「まあ、昨日の今日じゃ。北からの道中の疲れもあるだろうて。夕飯には起こすが、昼飯は喰いたくなかったら寝てていいからの。」
ジジィはそう言い残すと、ベッドルームの扉を閉めて出て行った。
ベッドに体を横たえ、私の弱さ……ジジィの強さ、ぼんやり考えているうちに眠りについた


(つづく)


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Response: コメント: 0  トラックバック: 0  Edit 01 14, 2012 Back to top
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