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猫を殺(と)れ(6)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
「街へでてみるかの?」
ジジィがそう言ったのは、9ヶ月目の事だった。
「え?だって私は北京語話せないよ。」
ジジィはこっちを見据えた。
「話す必要はない。仕事じゃよ。ジジィはここの所お前さんにやられっぱなしで腰が痛くての」
そういえば、朝の練習の時間も6割はジジィを倒すことができたし、調理中のジジィの頭を後ろからこっそり「おたま」で小突くことができるようになっていた。以前では考えられなかったことだ。
「……そんなに、悪いのか?」
「まあの。」
「気づかなかった……すまなかった……。」
「いや、ハイネが謝る事じゃない。それだけお前さんが柔軟さを身に着け、強くなったってことかのう」
そう言うと、テーブルの上に細身の刀身まで黒く塗られたナイフをそっと置いた。
「目標の近くまではわしがついていき、指定するからの。行くまでの地理は暗記して、帰りは一人で帰って来る事。ええかのう?」
「はい。」
いつのまにか、また敬語に戻っていた。
「んじゃ、行くかのう。」
あまりにも唐突だった。
近所に買い物にでも行くようにフラリと立ち上がり玄関に向かうジジィを見て、慌ててテーブルの上のナイフを逆に握り刃先を袖に隠すと急いで追いかけた。
何度も路地を曲がり、曲がり角のたびに目印になる物を記憶するのに必死だった。
小一時間ほど歩いたところで、広い公園のような所に出た。
平日と言うのに結構な人がいて、季節になれば見事な花を咲かすであろう藤棚の下では老人たちが小鳥の啼かしあいをしたり、毛並みの品評会をしていた。ベンチで碁盤を広げて碁に興じる人たち。ギャラリー。煉瓦張りの地面では子供たちがサッカーに興じていた。平和な光景だった。
木陰ではカップルが仲睦まじく会話をしているようだった。
だが公園内は2人1組の公安警察官が制服をきちっときこなして巡回していた。
「さて、どれが目標か分かるかいの?」
さっぱりわからなかった。それよりもこの平和な光景が信じがたかった。
祖国にも公園はあるが、党に貢献度の高い「上級市民」が対外観光用に平和を演じているだけだった。
「あの、木陰のカップルがいるのがみえるかのう、あまりじっと見るなよ。」
「はい。」
「あの二人が目標じゃよ。」
「え?二人共ですか?」
「そうじゃ。この国に亡命した、さる要人に向けてハイネの国から派遣されたヒットマンじゃよ。」
「……。」
「同胞を殺すのは気が引けるかのう?」
「……。いえ、祖国は捨てました。」
「そうか。じゃあ頼んだからの。わしは先に帰るからの。まあ、頑張ってみるがええ。」
そう言うが早いか、ジジィはさっさとその場を離れた。何が腰が悪いだ。平気じゃないか。

心の中で悪態をつきながらも、プランを練った。
公衆の面前、公安の見回り、相手は腕っこきのヒットマン。不利な状況だらけだ。
とりあえず碁を繰り広げているベンチにギャラリーのふりをして、公安が公園を一周する時間を測った。
時計は持っていないが、感覚的に約20分。男が先か女が先か。女は悲鳴を上げる可能性が高い。
体力的にも男との戦いが長丁場になる可能性が高い。女を先に殺ることにした。
しかしどうやって近づく?さっきちらっと見た記憶では木陰の後ろは植込みがあって、背後から近づけば確実に物音がする。
その時、ボンッと足に衝撃が走った。振り返ると、子供たちの遊んでいたサッカーボールだった。
これだ、と思った。
にっこり子供たちに笑いかけると、ボールを返さずにドリブルしながら子供たちの方に歩み寄った。
北でも少ない休憩の時間に仲間たちとよく、有り合わせの布で作ったボールの蹴り合いをしたものだ。
何を言っているのかはさっぱりわからなかったが、キャッキャという笑い声と喜びは伝わってきた。
一生懸命にボールを奪い返そうとする子供たちから、身体をひねり、足を巧みに使いかわしていく。
公安警察官がニコニコ笑いながら、私の真後ろを通り過ぎた。
もう少し。さすがに元気な子供達相手では息が上がり始めた。額に汗が浮いた。
そろそろか?一瞬視線を上げ公安警察官の位置を確認する。ちょうどカップルの位置から20mほど離れたところだった。
思いきりボールをカップルに向け蹴り転がした。蹴り飛ばした場合、受け止めて投げ返される恐れがあった。
ボールと一定距離を保ちながら走った。逆手に握ったナイフを握りしめた。
カップルが目前に迫った。木陰に入った。運よく女の方が先にボールを拾い上げようとうつむいた。
躊躇なく丸見えになった首の後ろの「ぼんのくぼ」という急所にナイフを突き立てた。
女は何が起こったかもわからないまま絶命した。そのままナイフを引き抜き額を押さえ仰向けに倒した。
出血は植込みのしたの芝生が吸収してくれるだろう。煉瓦張りの地面に血が流れるのは良くない。
さすがに男は瞬時に状況を把握したようだった。スーツの内側に手を突っ込むのが見えた。
拳銃かナイフか、どちらでもよかった。
体中のバネを利用して一足飛びにゼロ距離に近づいた。
ナイフを使う場合、突くのは相手が動かないか、こちらの気配に気づいてない時だけだ。
それ以外の時は斬る。
逆手に持ったナイフを持ち替える暇もなく、まだスーツの中に突っ込んだままの男のひじ関節を押さえ、首を真横に薙いだ。
噴き出す返り血を浴びないために、おとこの右半身に体を密着させ、顔をそむけた。
喉を切り裂いても、即死には至らない事がままある。ナイフを今度は順手に持ち替え心臓に刃の根元まで突き刺した。
そのままの体勢でじっとしていると、ようやく男の脈動と呼吸音が消えた。
男を抱きかかえ、後ろの植え込みまで引きずり、転がしてナイフを引き抜いた。血は心臓が止まっているためか噴き出すことはなかった。
子供たちに感づかれないように、女の手元にあったボールを子供たちの方に蹴り返した
背後から女の両脇に腕をいれズルズルと男を隠した植込みまで運び込んだ。
念のため、女の上着の汚れていない部分で顔を拭いた。血は浴びていないようだった。

状況は終了した。長居は無用だ。植込みを飛び越えると、公園の外周を一周して、記憶している限りの曲がり角を曲がり、老人の家に向かった。
本当は駆け出して、早く現場を立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
心臓の鼓動が今になって激しくなった。

だが、途中で妙な違和感を覚えた。視線。付けられている?
故意に歩くスピードを落としてみる。途中で立ち止まってみる。
背後からの気配と視線は、一定距離を保ち続けた。
殺るにしてもここでは目立ちすぎる。捲くにも地理が分からない。
老人の稽古場を思い出した。あそこなら塀に囲まれている。
そこに決めた。とりあえず何も気づかないふりをして、殺気を殺すことに専念した。

(つづく)






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