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猫を殺(と)れ (9)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
「コホン」
椅子を引き、食卓につくとシュンは重く気まずい空気をとりあえずは払拭するように軽い咳をした。
「えー本部の評価が出ました。『BBB』トリプルBランクです。僕としてはシングルAランクを推したのですが、やはり本部の方では過去の実績を重視するようで、このランクから始めてもらいます。ただ、うちの社でもトルーパー(一般兵士)は多いのですが、アサシンとメディックは慢性的に不足気味です。ミッションにおいての損耗率が非常に高いんですよ。ですから、ハイネさんが実際にミッションをこなして実績を積めば、すぐにA,AA,AAAとランクが上がります。生き残れば。」
一気にそこまで言うと、冷めた茶をまた一口飲んだ。
「で、報酬は大体どれくらいかのう?」
「そうですね、BBBで日給300USドル、Aで500ドル、AAで700ドル、AAAで1.000ドルと言ったところでしょうか。ただし装備や補給品、携帯食料などミッションに必要なものは全額自己負担です。またミッションによってはボーナスがでます。」
「ふむ。偉く高額だのう」
「いや、うちらはジュネーブ協定にも、ハーグ条約にも保護されませんから、捕まればすぐ処刑ですし。命の代金としては安い方ですよ。」
完全に割り切った事務的な言い方だった。
「あ、それとハイネさんの場合ですが、契約金、事前準備金として契約書にサインした時点で20.000ドルが支給されます」
「どうするかのう、ハイネ」
ジジィがこっちを見た。奥底に優しさの見て取れる視線に耐えられなかった。席を立った。
「ちょっと裏で風に当たってくる」
テーブルに突き刺さったままのナイフを引き抜くと、足早に食卓を出て裏口のドアを開けて稽古場に立った。

ジジィが作ったのであろうベンチ代わりの半分に切った丸太に腰かけてナイフの先で地面をほじくった。
今日一日で色んな事がありすぎた。初めての街並み、殺人、脱出、突然の見知らぬスカウト。
思考回路がパンクしそうだった。
脱北して行き場のなかった私を拾ってくれ面倒を見てくれたジジィに恩返しがしたい。
最期を看取るまで付き添っていたかった。
だが、外国で出稼いで、ジジィに送金して不自由なく暮らしてもらう事も考えた。
頭も心も混乱していた。あのシュンという人物も、そう悪い人物ではないように思えた。
空を見上げた。薄墨色に染まり夕刻を迎えようとする空を雁の群れが飛んで行くのが見えた。
傭兵か。まさにワイルドギースだな。ぼうっとその隊列を組んで飛んでいくさまを見続けた。

ギィッとドアの空く音が聞こえた。ドアの方を見るとシュンだった。
私は無視してまたうつむいてナイフで土をほじくる作業に専念した。
シュンは私の斜め前に立った。
「少し、お話してもいいですか?」
「ああ。」
「隣に座ってもいいですかね?」
「誰のベンチでもない。勝手にしろ。」
シュンは音も立てずに静かに丸太に座った。
「何で僕がこんな辺鄙な所まで、名も知れぬナイフ使いのあなたに会いに来たかわかりますか?」
「いや、さっぱりだ。私はジジィと暮らしていければそれでよかった。」
「あなたはそうでしょうね。でもイルカさんにはそうもいかない事情があった。ある連絡員を通してうちの会社にコンタクトを取ったのはイルカさんなんですよ。」
「え?じ、事情って?」
シュンはうつむいたままだった。
「イルカさんね、癌なんです。末期の。もって半年、短ければ3ヶ月だそうです。あなたを拾ったのも北京市内の病院で、癌の告知を受けた帰りだったそうですよ。」
「嘘だね。そんなそぶりも、薬を飲んでる所だって見たことない。」
「それはあなたが鈍感だからですよ。イルカさんより早く起きたり、遅く寝たり、イルカさんの部屋に入ったことがありますか?」
言い返す言葉がなかった。
いつもジジィにたたき起こされ、用意された食事を食べ、訓練の後はジジィの沸かしてくれた風呂で汗を流して、ベッドに倒れ込むように寝ていた。
「……そんなに悪いのか……。」
「はい。」
「何でもっと早く行ってくれなかったんだよ、ちくしょう!」
涙があふれ出た。シュンがスーツの内ポケットからハンカチを出すと頬を拭ってくれた
「イルカさんだってもっと一緒にハイネと居たかったと思う。でも自分が消えていくとわかった時に、あなたがこれから先生きていくための道を切り開いてやりたかったんじゃないかな?」
「……ま、僕の話はこれで終り。あとは君が決めればいいよ、ハイネ。」

やがて、心は決まった。
「おーいハイネ。晩飯じゃぞ。一緒に食わんかあ?」
ジジィの声が部屋の中から聞こえてきた。
「ああ、今いく。」
まだ重い腰をのそりと持ち上げ、食卓へのドアを開けた





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