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猫を殺(と)れ (23)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
ピンポーン
間抜けなチャイムの音が鳴った。毛布をはぐると足音を忍ばせて玄関近くの死角に立った
魚眼のドアレンズを覗くようなどんくさい真似はしない。眼球を弾丸で吹き飛ばされるのはまっぴらごめんだし、
ドア越しにマシンガンでハチの巣にされるのはもっといやだった。
「誰だ」
「こんにちは、トミーさんから言われてきました。黒井美沙です」
「合言葉は?」
「合言葉?そんなの聞いてないわ?」
流暢な英語だった。私より綺麗な発音に聞こえた。
「OK。ちょっと意地悪した。今開けるからドアから目いっぱい離れてくれ」
「はい。これ以上下がると、私、転落死しちゃうわ」
ジョークも言えるのか。そう思いながら、ドアチェーンと鍵を外した。
「どうぞ」
「待って、荷物がいっぱいで、ちょっとドアが開けれそうにないの。開けてくれないかしら」
面倒くさいな、と思いつつドアを開けると本当に紙袋に埋もれた女性が立っていた。
半分荷物を抱いて玄関の中に2人ようやく入ることができた。荷物を置いたところで、初めて彼女を見た。小柄で華奢だが真っ黒な髪に笑顔が似合っていた。
「初めまして、ハイネさん。黒井美沙です。これからしばらくよろしくお願いします。ミサって読んで下さい。」
そういうと右手を差し出した。
「あ、ああ。こっちこそよろしく頼むよ。私はハイネ。私の事もハイネって呼んでくれ」
そう言って右手を差し出し握り返した。
「随分と、ブロークンな男っぽい英語を喋るのね?それじゃあ早速レッスン1.これからは日常で英語は極力使わない。日本語だけで会話する事」
「OK.分かったよ」
「ほら、早速英語。」
「あ、はい。申し訳ありません」
ミサは考え込むような困った顔をした。
「まあいいわ。いつまで玄関でお喋り続ける気?中に入れてもらえるかしら」
「はい。こちらです。どうぞ。」
そう言って荷物を持ちダイニングに運び込んだ。
「部屋を見せてもらっていいかしら?その間に荷物の中身、全部ダイニングテーブルに出しておいてね」
そういうとさっさとダイニングを出て行ってしまった。
仕方なく荷物を開封していった。ボディソープ、シャンプー、コンディショナー、女性物の下着上下5着ずつ、スウェットパンツにスウェットシャツ。洗濯機用洗剤に柔軟剤。
よくもまあこんなに持ってきたもんだと思った。
「どうかしら、当面はそれでしのげるんじゃない?」
その声に振り向くと、「点検」の終わったらしいミサが立っていた。

「あ、そうですね。感謝します。」
「とりあえずはその日本語ね……」
そういいながらキッチンを見たミサはこっちをいぶかしげに見た
「ハイネ、あなたもしかして自分で料理できない、とか?」
国では配給食糧、ジジィの所ではジジィが。PMCでは食堂があった。ナイフは使えるが、包丁を使ったことはない。闘い以外では。
「ええ、まあ。料理はしたことがありません。」
何かものすごく女性としての欠陥を指摘されたような気がして、うつむいてしまった。
料理をするよりナイフを研いでいる方が、銃の整備をしている時間が有意義な時間と感じた。
「空腹を感じたら、近くにコンビニエンスストアがありますし。大丈夫です。」
「駄目よ。栄養が偏るでしょう?私が教えますから自分で作って下さい」
「あ……あの……できるだけ簡単な料理で構わないでしょうか?」
「もちろんよ。それと、ベッドサイドに避妊具があったのだけど、ステディな彼氏がいるのかしら?」
「いえ、いませんし、私はピルを飲んでいるので大丈夫です」
「駄目よ。」
また「駄目よ。」の声が飛んできた。
「妊娠の問題じゃなくて、性感染症の問題よ。セックスの時は必ず使いなさい。」
「分かりました。そうするようにします。」
「それと……」
まだあるのかとげんなりした。
「ハイネはベッドで寝る習慣がないの?毛布だけで床に寝ていたようだけど?」

毎日が非日常で生死の境目を綱渡りしていた私に、こんな平穏な国のふわふわ柔らかいベッドで眠れるはずがなかった。床に寝転び毛布をかぶり、物音がする度に、2時間おきに目が覚めていた。返事のしようがなかった。
黙っていると、何かを察したのか
「まあ、いいわ。その代り清潔にね。服だってその外出着でそのまま寝てたんでしょう?」
と、小首を傾げながら聞いてきた。

砂漠でそんなこと気にしている暇はなかった。ミッションが終わってグッタリ寝ればすぐ次の朝ミッションだ。
遠征すると1~2週間同じ服を着ることもザラだった。アラートがなって服を着てたんじゃ間に合わない。

「はい。すみません。これしか服がないのです。」
「えぇ?本当に?じゃあ今日一緒に買いに行きましょう。」
はっと思いついた。
「それと、お願いがあるのですが。」
「何かしら?」
「私に化粧を教えて下さいませんか?したことがないのです。」
ミサはまた驚いた顔をしたがニッコリ微笑むと携帯電話を取りだしてどこかに連絡を取った。
「ええ。ええ。そう。カットとメイク。メイク指導もしてたわよね?うん。じゃあ14時予約で。」
「実を言うと私もメイクは得意じゃないの。だからこの近くの美容室でメイクレッスンもしてるから頼んじゃった。週に2回行けるわよね?」
電話を切ったミサがいたずらっ子のように舌を出して、そう言った。

「それと一応の体型みたいから服脱いで見せてもらえるかしら?」
私はうなずくと何の躊躇もなく美沙の前で裸になった。下着は昨夜のシャワーの時に洗って干しっぱなしでつけてなかった。
「キャッ」
ミサが両手で目を覆い隠した。自分で脱げと言っておいてどういうことだと思った。
「ハ、ハイネ、あなた下着は?」
「ショーツは洗って干したままです。ブラはストラップが擦れて痛いのでしません。胸、小さいですので。」

ようやく落ち着いたのか。ミサは私の体を観察しだした。
「余分な脂肪も、肥大した筋肉もなく、引き締まっていい感じね。少年みたい。あ、悪い意味じゃなくってね。今までのお国じゃ分からないけど、日本じゃブラはした方が良いわね。ストラップレスのがあるから。」
「はい。」
「でも、あなたって体毛薄いのね?」
「え?」
「ほら、ここよ。」
臍のずっと下の毛を触ると、一番敏感な部分を指でノックされた。
一瞬脳に電撃が走ったが、PMCでは何度も経験した事だった。
そっとミサに嫌悪感を与えないよう手を握りその部分から離した。
「服を着ても構いませんでしょうか?」
「ええ。もういいわ。サイズ分かったから買い物も楽よ」
そういうとミサは指をペロッと舐めた。

服を再び身に着けた。
しかしヘアカットか。この髪気に入ってたのに、何か変かな。
おかっぱ頭の伸びた前髪をグシグシ擦った。





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