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猫を殺(と)れ (24)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
夜7時、玄関を開けた私は両手いっぱいの荷物を抱え、グッタリと座り込んだ。
ひどいミッションだった。

あれからミサに連れ出された私は、サンシャインシティとよばれる中でもランドマークタワーになっているサンシャイン60というビルに連れて行かれた。
マンションから見えた街で一番高いビルがそこだった。
そこはまるで私にとってはおとぎの国のような目映さだった。
人並みの喧騒の中をB1から3Fまである専門店街をミサに手を引かれ20店舗以上回った。
絶対にスカートは嫌だという私に、ミサは絶対似合うと言って買ってしまった。
私が選べたのは黒のパンツスーツと黒のハイヒールだけで、あと4着の上下はミサが選んでしまった。
「この黒のデニムなんか上に何を着ても着回しできるからいいわよ~」
などと自分の買い物のように高揚して、どんどんショッピングしていった。
服が増えるのは別にいいけど、ミッションが終わって処分するときが大変だなと思った。

「あ~人のお金で買い物するって何でこんなに楽しいんだろ」
ミサが何気なく言った言葉が気になった。
「どういう意味ですか?」
「あ、口が滑っちゃった。ここの買い物、全部トミー持ちなのよ、ふふふ。」
またトミーに借りができた。会った時返さなくては。
買い物はまだ続いた。バッグ、小物、果ては女性用ファッション誌数冊まで。
「これ読んで勉強しなさいね。」
そう言われて渡された雑誌は厚み以上に重かった。気が滅入ってたせいだろう。

「さて、じゃあ美容室行きましょうか」
「はい。わかりました。行きましょう」
はやくこの雑踏から抜け出したかった。
両手に持った荷物も、20リットル入りのジェリ缶(ガソリン携行缶)を運んでいるときより重く感じた。
私の疲れた顔を察したのか、ミサはタクシーを使ってくれた。

タクシーの止まった先はとても瀟洒で、コンクリートの打ちっぱなしのビルが年月を経て、建物のあちこちに植物が這いあがってきていた。
驚いたのは私のマンションから歩いて5分ほどの距離にあったことだ。

黒地に銀の飾り模様が入り真ん中に「k」とだけかいた看板を間接スポットで照らしていた。
「k(ケイ)ちゃん、来たわよ~」
「あ、ミサさん、こんにちは。そちらの方が今日のお客様ですか?」
「そうそう。ハイネちゃんっていうの。よろしくね。」
「あ、ハイネと申します。よろしくお願いいたします」
頭を下げお辞儀をした。とたんにミサの肘が脇腹に刺さった。
(お客なんだから、偉そうにしてればいいのよ。)耳打ちをされた。
「じゃあハイネさん、お荷物お預かりしますね」
kさんは私の手から優しく荷物を受け取るとロッカーに仕舞った。
「ハイネ、私、今日はこれで帰るけど明日から料理、生活、特訓始めるわよ。じゃね」
ミサは早口の英語でそれだけ言うとバ~イと手を振って店を出て行った。
と思ったら扉からひょっこりまた顔を出して
「kちゃん、なるだけゴージャスに仕上げてあげてね」
と言い残し、今度は本当に帰って行った。

「ハイネさん、こちらへどうぞ。」
木にスポンジを貼り皮で覆いリベット打ちした椅子は座り心地が良かった。
そして何より店の雰囲気が落ち着けて良かった。
店はkさん一人で切り盛りしているようだった。だから完全予約制。待っている客がいないのも安心できた。
「ミサさん、ゴージャスにって言ってましたけど、どうされますか?」
「あの、よくわからないので全てお任せいたします」
「分かりました。お時間の方は大丈夫でしょうか?」
「はい。時間だけはあります」
それを聞くとkさんはニッコリ微笑んだ。
「ではシャンプーいたしますのでこちらの席にどうぞ」
私の前を先導して案内してくれた椅子はまた違った白い革張りのシートだった。
「倒しますね」
その声と共にシートが急にリクライニングしはじめてビクッとなった。
「大丈夫ですよ~。お首痛くないですか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「ではお顔失礼いたします」
そういうと顔にガーゼのようなものをかぶせられた。
息苦しいのと視界を塞がれたことで急に不安が増した。全身に緊張が走った。
「シャンプーしていきますね~」
そういうとkさんは優しく頭皮から毛先までマッサージするようにシャンプーをしてくれた。
他人にシャンプーしてもらうのは初めてだった。ものすごい気持ちよさだった。

だがシャンプーも終わり、カット、カラーリング、パーマ、の3時間は苦痛でしかなかった。
髪にこれだけ時間をかけるのはものすごい労力だと悟った。

最後のブローとセットが終わり、鏡を見た自分に驚いた。さっき買った女性ファッション誌のモデルのような髪型になっていた。

「いかがですか?お気に召しましたか?」
kさんの問いにただ頷くしかなかった。
「では次はメイクに移りますね、こちらにどうぞ」
今度は対面式の間に細長い机のある椅子に座らされた。
ローションから下地、レクチャーを受けながらのメイクだったが言ってることの半分も理解できなかった。
ただ、時間が過ぎていくにしたがって、顔が重くなっていく感じがした。

「はい、完成です。鏡をご覧になってください」
言われるがままに鏡を見た。別人が立っていた。
これは使える。下手な変装よりずっと効果的だ。このスキルはマスターしなくては。
「週に2回のメイクレッスンですが、分からない事や困ったことがあったらいつでもいらしてください」
kさんはそう言って何やら商品の説明をしたが、「お勧め」と言う奴は全て購入した。
「またいらしてくださいね。お待ちしております」
その声を聴きながら両手いっぱいの荷物を抱え、フラフラになってマンションへと戻った。

そうして私の東京2日目のハードなミッションは終了した。
玄関に座り込んだままだった私は、そのまま眠りについた。




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