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猫を殺(と)れ (29)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
「しかしデカイ屋敷だね~」
NIKONの双眼鏡をのぞくライトが呟いた。
「ああ。まじめにコツコツ働くのが嫌になって来るぜ」
シュンが隣で時計を見ながら何かをメモしている
「誰が真面目だよ~。」
「いいから、ちゃんとカウントしてくれよ」
「1,2,3,4、……相変わらず8人だね」
「犬付き?」
「でっかいドーベルマン。何食ってんだろうね、肉かなやっぱり。いいなあ」
「そりゃお前ドーベルマンだもん、肉食ってるんだろうよ。こっから狙えそうか?」
「うん、遠くても700mだからね~。でもワンちゃん撃つのやだな~。交代しない?」
「俺だって嫌だよ。それにライトほど上手く狙えないな」
「走り出したら俺にも難しいよ~」
「まあな」
ライトがゴソゴソとポケットを片手で探り始めた。
「おい、煙草はやめろよ?昼間でも、犬がいるんだから臭いで感づかれるぞ」
「そうかな~。やっぱそうだよな~」
「ライトも禁煙したら?」
「だよね~。あ、13時になったら言ってね~薬の時間だから」
「OKOK」

2人がこの山中の大豪邸を張り込みしだして3日目になる。
突如トミーから連絡があったのは1週間前の事だった。
「計画を前倒しする。ハイネがポンコツになった。」
そして、この家の24時間体制での監視を命じられた。
広大な屋敷だった。広い芝生敷きの庭。2階建てだが横に広い重厚なコンクリート製の建物。
今の所、毎日変わらず3交代制で8人の私服警備員がドーベルマンを鎖でつないでガードしている。
屋敷は山のふもとから、一本道のどん詰まりに開かれた土地に立っていた。
その山中、屋敷から300mほど離れたところでライトとシュンが望遠レンズつきカメラ、双眼鏡、スターライトスコープ、ナイトスコープを使って監視を続けている。
2人とも、スナイパーとスポッター。長時間待つことと見張る事には慣れていた。

「動きがないね~。あいつら立ってるだけで給料もらってるんだろ~?」
「ああ。だから臭いんだよな。ここまで普通警備しないしな」
「あのスーツの左胸の膨らみ。道具抱いてるね~」
「だろ?この山一つが治外法権って感じだな。あ、ライト13時。」
「うん。」
そう言いながらライトは匍匐のまま後退して、バックパックから小さな包みを取り出すと錠剤を水で流し込んだ。
「ちゃんと飲んだか?」
「飲んだよ~。もう、ママみたいだねシュンは~」
「ば、馬鹿いってんじゃねえよ。交代の時間までとっとと寝てろ」
「OKママ」
後ろを向いて蹴りでもいれてやりたいところだったが、そのままブランケットにくるまって寝始めたライトを見るとそういう感情も消えた。ママ、か……。
それでもまたこうしてペアを組めることが嬉しかった。
気持ちは一方通行でも気づかれてはいけないと思った。
そういう「女の部分」がでる自分が腹立たしかった。
ふと、なんで自分は平気なんだろうと思った。ライトもハイネも戦場から離脱して壊れた。
ライトは除隊から3年経った今も薬で抑え込まなければいけないほどの暴力衝動に駆られる。
故郷のフィンランドでヘラジカを撃ってるだけでは物足らなかったのだろうか?
自宅で散弾銃を撃ちまくっていたところを、警察に保護されたという。
幸い被害者が居なかったため、精神病院に1年入院させられただけで終わったらしい。
退院してすぐシュンに連絡があり、それ以来シュンが保護するという形になっている。
どういう感情で連絡を取ってきたのかはわからなかったが、頼ってきてくれたのが嬉しかった。
早くもすうすうと寝息を立て始めたライトを見ていると、自然と笑みがこぼれた。
やっぱりママなのかな……。自分でもおかしく感じた。

その時、動きがあった。
一台の車が山を登ってきた。アルミ色の1.5~2tのボックスバンだった。
三脚に固定したカメラのレンズキャップを外し、写真を撮った。ナンバーまではっきり捉えれた。
大口径レンズなので光の反射が怖い。軽くレンズに触れないように手で覆う。
バンは屋敷の正面を通り過ぎると、家を囲む鉄柵の向こう側に回り、ちょうど屋敷の真横に停まった。
運転手が警備員と何かを話している。またレンズを覆っていた手を離すとシャッターを切った。
腕時計を見て時間を記憶した。
発泡スチロールの箱や段ボールを屋敷に運び込んでいる。死角になっていたがそこにも勝手口があるようだ。
一つの段ボールに大根や白菜が入っているのが見えた。どうやら食料品の業者の様だった。
妙に多い量だった。ふと、警備員たちの車がないのに気付いた。何で今まで気づかなかったんだろう。
警備員たちは住み込みだ。出入りも確認していない。8時間ずつ交代しても8×2で16人。多ければ24人いることになる。食料品が多いのは当たり前だ。
業者は10分以上かけて搬入を終えると、また警備員となにか談笑してから運転席に乗り込むとバンを発車させた。
運転手の顔もカメラで抑えた。バンに業者名は記されていなかった。
カメラにレンズキャップをはめ、時刻と車のナンバー、車種をメモした。
銃を持った警備員が最低でも16人か……。3人じゃちときついな。そう思った。
少し寒くなってきた。山の夕暮れは早い。まだ昼過ぎだというの日影ができ空気が冷たくなってきている
尿意を催した。あまりこの場は離れたくない。こんな時女は不便だ。
自分の体を呪った。だが、我慢していて注意力散漫になるのも得策ではない。
ゆっくりと後退し、そっと立ちあがるとライトのブランケットをかけ直して、観測地点から幾分離れた小川と言うのもおこがましいような水の流れのそばで用を足し、水で手と顔を洗うとまた定位置に戻った。
戦場ではオムツを履くこともある。スナイパーとスポッターは、トルーパー(一般兵士)とはまた違った過酷さがあるのだ。
メモ帖の屋敷の見取り図に勝手口らしきものがある事と、警備員が住み込みで常駐している可能性を付け加えた。





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