< 2017.05 | 2017/06 | 2017.07 >
123456789101112131415161718192021222324252627282930      

猫を殺(と)れ (32)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
私はそう深くもなくそう浅くもなく、光が透けてブルーに染まった海の
綺麗なサラサラの砂の上で海の表面が波立って綺麗に光のカーテンが降り注がれるところ
そこでゆっくりとクルクル回っていた。
岩も、岩についたサンゴや海藻、小魚の群れ。全てが鮮明に見えていた。
「ハイネちゃん~きこえるかなぁ~」
遠くで聞こえているような優しい呼びかけの声が耳元でした。
(聞こえてるよ)
「今どんな格好か言えるかな?」
フワフワとゆっくりとした回転の中、自分の体を観察した。
(指も手も足もちっちゃいよ。膝を抱えて丸くなってる)
「そうか~そこはきもちいい場所?」
(うん。すごくきれいで落ち着くんだ)
「色んなものが見えるの?」
(うん。魚もいるし、波も、光も。)
「じゃあ、もっといいもの見てみようか?」
(うんうん)
「これからハイネちゃんの体は一回転するごとに段々大きくなっていきます。
その度に色んなものが見えます。そしてどんどん今いる所から浮いていきます。」
(はーい)
「ではいきますよ?それっ!」
その声と同時に私の体の回転は速くなり、大きさも増していった
閃光のような映像の群れが五感をぐるぐると撫でまわしていく。なんだろうこれ。
見たことある。聞いたことがある。これは……記憶?誰の記憶?私の記憶?
「気分は悪くない?続けても大丈夫?」
(うんうん)
また回転を繰り返しながらハイネはもうだいぶ海の底からは浮かび上がっていた。
ここからだ。もう3回も失敗している。
表層と中層、底。いつも中層までは引っ張り出せてこれるのだが、表層との間に油の層でも浮いているかのように、そこからの浮上を拒むものがある。自ら拒んでいる様子は全く感じられないのに、その油の層を突っ切れない。
「じゃあ上を見てごらん?おっきなおててが見えるでしょう?」
(うんうん)
「ハイネちゃんをもっといいところに連れて行ってくれる手だよそれは」
(あ~行きたい行きたい。手を伸ばして~)
「この大きな手はここまでしか届かないの。ここまでハイネちゃんがいっぱいいっぱいたどり着きたいって願えば、届くんだよ?できそうかな~?やってみる?」
(やるやる。ハイネ頑張る。)
高速回転がややスローになって浮上が止まった。
黄ばんだ赤茶けたねばねばのゴムフィルムみたいなもので覆われていた。
(このゴムを破らなくっちゃいけないんだ。きっと)
3回の経験でハイネは学習することを覚えていた。
いつもとは体勢を変え、膝を抱えながらゴムにぶつかることをやめた。
手をゴムに差し込んでみた。何の抵抗もなかった。
次に両手の甲をあわせ差し込むとぐっと力を入れてゴムの膜を破こうとした。
力が足らなかった。でも一瞬、ゴムの向こうの嫌なにおいをかいだ気がした。
ちょっと怖くなって力が溜まるまで休もうと思った。
(すこし……やすむ)
「うん。えらいわよ、そこで引き返さなくなったじゃない。」
その時突然チャイムが鳴った。
「もう、この大事な時に……」
「ハイネちゃんしばらくはそこで頑張れる?もう寝ちゃう?」
(がんばる)
「ちょっといなくなるけど無理しちゃ駄目よ。」
(うん)
完全に目張りして太陽光の入らなくしてある「メディテーションルーム」。
ハイネの人差し指に挟んだクリップでバイタルを管理してくれている。
逆行催眠を解くのは簡単だが、自らが望んだ幼児退行した場合はなかなか処置がしづらい
でもハイネも頑張っている。私も頑張らなくては。
全裸でメディテーション用の頭から、足までがバケット式になっているハイネをみた。
頑張ると言った以上、あまり皮膚などに刺激を与えたくない。タオルケットはかけずに部屋をでて扉を閉めた
インタフォンを取った。
「どなたでしょうか」
「あ、富井酒店の物ですが……」
ドアロックを次々とはずしてチェーンを外した。扉の向こうにはシュンとライトが立っていた。
「連絡なしで随分急ね」
「いや、ライトの奴が薬に耐性が付いたらしくて、足りない分勝手に飲んじゃって」
そういえばライトの顔色が冴えない。
「昼間見た時はもう土気色で、汗がビシャビシャで……」
「頓服は?」
「使い切ってます。」
「あれ6週間分よ?たった2週間で使い切っちゃったの?信じられない」


(あ!誰だろう聞いたことのある声、いつもの声も、まだもう一つしってる声)
(会いたい。懐かしい声。)
ハイネはもう一度力をこめてゴムを引き裂こうと踏ん張った
中からかすかに鳴き声やうめき声、苦しむ声が聞こえてきてぞっとした。
ゴムに切れ目が入った。そこから大量の赤黒い
「怒り」「悲しみ」「憎しみ」のこもった廃棄物のようなものが溢れだした
(ここをくぐっていかなければみんなにあえない)
腐臭のこもった肉塊をこじ開けながらドロドロにまみれてハイネは上を目指した
(行くよ!皆行くから待ってて!)
そして、ようやくハイネは泥沼からはい出した。薄いゴムは破裂して広大な海の流れに散り散りになっていくように見えた。
もうほとんど力は残ってなかった。水面に向かって一気に水をキックし浮上した。
手が空気に触れた。ブハッっと詰まっていた息をした。出た先は奇妙な形のベッドだった。
何で私はこんな所に?だが隣の部屋からは懐かしい声が3種類もする。
水の世界はどこへ行った?錯乱していた。
よろめきながらベッドから立ち上がった。かすかに光の見えるあれはドアだろう。
ドアに向かって歩き、途中で人差し指に止めてあったクリップが外れるとピーッという電子音がした
私がドアを開けるのと、向こう側からドアが開くのが同時だった

男が二人と女が一人。ドアを開けたのは女。でもはっきりとは覚えていない。
口をぽかんと開けてたちすくんだ、その女性の横を通り抜けると男たちの方に向かった。
シュンとライトは隣の部屋でアラーム音がするのを聞いて、先客がいたのかと思ったが
ドアから出てきたハイネを見て、さらに驚いた。
「ハイネ!」3人の呼ぶ声が揃った。

普通あれほどの深層催眠から自力で現実社会に意識が戻ってくるなど……
乱暴すぎる。錯乱してないか?情報処理はできているか?
最もデリケートに扱わなければいけない意識のサルベージ作業なのに、自ら這いあがってきてしまった。
意識と記憶の強調は?それができてなければ何もできない0歳児が立ってるのと同じだ。
美波は驚愕するとともに、慎重に観察した。

あれ?私声の主をしってる。
「俺だよ俺~ライト。スナイパーのライトだよ~。」
「ハイネ、ライトと同じ病院だったとはな。シュンだ。思い出せるか?」

スナイパー……

ライト……

シュン……

中東の風……砂……照りつける太陽……

PMC!!

何か、記憶の窓ガラスがパーーンと割れたような感じで
全てが一瞬で思い出せた。

「そう、ハイネ。私はハイネ。無事戻れた。」






にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 躁うつ病(双極性障害)へ にほんブログ村 介護ブログ 親の介護へ

web拍手 by FC2

Response: コメント: 0  トラックバック: 0  Edit 01 22, 2012 Back to top
ブログパーツ

Comment

非公開コメント(非公開にした場合、匿名性を尊重しレスしない事があります)

Plofile

灰音



name:灰音(ハイネ)

Entry & comment
TOP 10 Ranking
Updated Information
あくまでも、私個人の好んで購読するブログさんの更新情報で、いわゆるリンクとは違いますので、ご了承ください。またクリック先でのトラブルについては一切当サイトは関知いたしませんので、自己解決をしてください
Category
QR
QR