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猫を殺(と)れ (40)

Category : KILL THE CAT
テーマ : ひとりごと
ジャンル : 心と身体
朝起き、朝食をとり、それぞれが自分のメニューでワークアウトをこなした。
私は相変わらずプッシュアップ50回と腹筋50回。間にスクワットを50回入れて、もう1セットプッシュアップと腹筋だけのメニューにとどめておいた。本来ならランニングも入れたいところだったが、日中の出入りを控えるためにパスした。
皆ほとんどが軽めの運動だけで、あとは談笑したり、休養したりで一日を過ごした。
そうした淡々とした日々が決行当日前夜まで続いた。
徐々に全員の食事摂取量と睡眠時間が減っていき、神経が研ぎ澄まされていった。
チーム内で一番温厚なミッフィーでさえ、目がぎらつき夜行性の獣のような雰囲気をまとうようになっていた。
当日前夜、トミーの音頭で水杯ならぬ、前祝と言う事で各自舐める程のバーボンを一つのタンブラーで回し飲みした。
「よし。明日はやろう!」
トミーの一声で締めくくられ、各自装備の最終チェックに入った。
ここに至って、チームの士気は最高潮に達し、緊張感も膨れ上がっていた。
無駄口をたたく者もおらず、皆がそれぞれやるべきことをやった。
やがて明かりが消え、決行当日を迎えた。


未明。トミーは先行し単独で事前に目星をつけていた車の調達に向かった。
残る4人はお湯を沸かし、熱いコーヒーを飲んだ。私は煙草を吸い、髪を後ろで束ねた後バンダナを頭全体を覆うように巻いて、装備を身に着けた。ピリピリと静電気の走るような緊張感が地下室を支配していた。
朝食は誰も取らない。前日の朝食から皆食べていない。今回のミッションでの被弾率の高さを全員が分かっており、腸にあまりものを入れておきたくなかったのだ。かすり傷でも腹を撃たれて腸が裂けた時に腹膜炎を起こすか起さないかで生存率は変わってくる。まあ、このミッションでは腹を撃たれて戦闘不能になった時点で殺されると分かっているので、まじないみたいなものだったが、それでもやらないよりはやっておいた方が気分的に違った。
私はふと思い出し、自分の荷物の中からワインレッドの口紅を取り出し、洗面所で紅をさした。
緊張のせいか、口紅を持つ手が震えていた。
緊張しすぎもよくない。ミッフィーに言ってアスピリンを1錠もらい、カップに残ったコーヒーで流し込んだ。
7時には店に帰って来る予定のトミーにあわせ4人がワードローブから階段まで並び、バケツリレー式に装備、個人の荷物などを1Fに運び上げた。最後に火の始末だけをチェックして地下への扉を閉じた。
1Fは11月中旬と言うのに少し寒いような空気が漂っていた。煙草を2本吸い終えたころ、エンジン音が聞こえてきた。
3ナンバーの8人乗りバンが店に横づけになり、スライドドアを開ける音がすると、トミーが店の中に入ってきた。
トミーが装備をつけ終わったところでシュンが全員にカナル式の送受信機を渡し、皆がそれを耳に押し込んだ。
再度リレー式に装備を積み込んだ。一人だけジャケットを着たシュンも一緒に車に乗り込んだ。
トミーが店に鍵をかけ、そばの植え込みの中に鍵を隠した。
「いこうか」
運転席に座ったトミーの一声で車は発進した。私とミッフィーだけは現地を知らない。この時間の下りで、車でも30分ほどかかる都内でも山間のほうだとういう。
車に揺られている間、ずっと目を瞑っていた。戦闘のイメージが湧いては消え、湧いては消えていった。
幹線沿いから入り組んだ住宅街を抜けしばらく走った所で車は止まった。山手に寄せてある。
「じゃあ、シュン後は頼んだ。車は適当に捨てて、あとは電車で頼む」
「分かった。皆また後でな」
「ああ、またあとで」
トミーとシュンがそれだけの会話をした。皆顎を引くくらいの会釈を交わしただけだった。
付近に民家はない。散歩中の人間がいないのを確認し、道に一番詳しいライトが先頭になり装備と手荷物を抱え車を降りると、全員がカチャカチャと装備のこすれ合う音をさせながら後に続いた。
1.5m程のコンクリートの擁壁をよじ登ると緩い斜面があり、急に森になる。森の木陰に入った所でライトが止まり、皆がそこに集合した。下道から私達の姿が見えなくなったのを確認したのか、シュンが車を出すのがちらっと見えた。
「カメラの死角に回り込んで1番カーブまでいくからね~。トラップ避けながら行くから、僕より前に出ちゃ駄目だよ?」
ライトの先導で私達が「1番カーブ」と呼んでいる食料品運搬の晩襲撃地点の直上まで行く。
斜面が急になり、足元が悪くなる。木の幹に捕まりながら、よじ登った。途中勾配を上下したので、都合4回のワイヤートラップを抜けながらの道のりとなった。
「OK。ここがほぼ1番カーブの真上だからね~。僕はまだ上にあと15分くらい進まなきゃだから。」
10分ほどで少し開けた地点に到着するとライトがいつもと変わらぬ笑顔でそう言った。
やっぱりスナイパーは精神的にタフなのかなと思った。こっちは緊張で笑顔を浮かべられない。
「ありがとう、ライト。じゃあまた後でな。」
「うん。トミーもね。」
それだけの短い会話を交わすとライトは手荷物を置き、装備だけを持つと山道を這い上がっていった。装備だけと言ってもSDV(ドラグノフ)狙撃銃とM4カービンを持っているのだから結構な重量なはずだ。
M4カービンはトミーの提案で、手のふさがるミッフィー以外の4人が持つことになっている。今、トミーの肩にはシュンの為のM4カービンもぶら下がっている。
ライトを見送り小休止をしたのち、一番カーブを上から見た。断崖かと思ったが、ラペリングしなくても、何とか生えている木の根や岩を伝って降りられそうだった。ただ必死で崖に取りついていなくてはいけないだろうが。
ちょうど真下はカーブの一番えぐれている所で3人が隠れられるほどの雑草の生えたブッシュがあり、崖からは水が沸いている。
本当は道路の左右から制圧したかったのだが、あいにく道路の向こう側は深い側溝が走っていた。
先ずは一番身軽な私が下りることになった。銃をトミーに預け、両手をフリーにしてロッククライミングの逆の要領で降りていく。
何度も足元が崩れたが何とか下りられた。トミーとミッフィーはルートを見ていたようだ。
下から上を見上げ両手で大きな丸を作ると、トミーがザイルに結わえた荷物や小銃、ファーストエイドキットをズルズルと斜面に沿わしながら下ろしてきた。
下で荷物を受け取りザイルをほどくとトミーが巻きあげて行った。
2番手にトミーが下りてきた。何度か危うい場面があったがそれでも上手く降りてこられた。
最後のミッフィーは身軽なもので、スルスルッと降りてきた。握力が強い分、身体を自在に操れるのだろう。
私とトミーはM4カービンを持ち、3人が茂みにしゃがんだ。
「ガ……β、待機完了」
「了解、αもうちょい」
ライトはまだかかるようだ。現地についても、射線を考えて位置を決めたり、狙撃準備に忙しいのだろう。
腕時計を見た。まだ時間的には余裕がたっぷりとあった。
トミーに勧めて、自分も一本とり煙草を吸った。まずは、シュンの乗った車をやり過ごさなくてはいけない。
煙草を吸い終わった頃、耳の中でライトの声がした。
「α、レディー……」
「β、了解」
あとは待つだけになった。





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