< 2017.05 | 2017/06 | 2017.07 >
123456789101112131415161718192021222324252627282930      

夏の凶悪

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
空調の効いたタクシーから、ずっしりと重いボストンバックを引きずるように車外に出る
駅前はまだ8時前だというのに、うだるような暑さだ
昨夜から一睡もしていない頭に蝉のなく声が頭の中を跳ね回る
構内に入ってこの季節には似つかわしくないロングコートのポケットから、コインを取り出してペットボトルのミネラルウォーターを自販機で買う。ゴトリと落ちてきたペットボトルの音すらやけに耳に響く

ああ、まただ世界が歪んできた

同じポケットからヒートシートのままのボルタレンと液状になったリスパダールを3つ一気に喉に流し込んだ
ミネラルウォーターを少し飲んで苦みをやりすごすと、自販機にもたれかかりペットボトルを額に当て深呼吸をした
いくらか眩暈も耳鳴りもマシになってくる
そのままそこにうずくまり、人からは見えないようにボストンバックの中を確かめる
AKS-74U、AK-74の銃身を切り詰めたもので、集弾率は悪いが群衆に向けて弾をばらまくのにはちょうどいい
5.45×39mmの弾が30発こめられたマガジンを上下逆さに粘着テープで留めたものが20個
北朝鮮からの闇ルートで仕入れたロシアご自慢のマシンガンと弾だ
そのままの体勢で両方の腰に手をやる
日本という国はライフルやマシンガンなどの大物の密輸には、監視が緩いが拳銃となるとかなり厳しいし
闇ルートでもマシンガンと変わらない値段が付くほど高価だ
仕方なく型遅れのベレッタM92を2丁横田基地のアメリカ兵から買った
日本人の、しかも女性である私にはグリップが大きすぎるし、反動も大きい
利点と言えば装弾数がマガジンに15発チャンバー内に1発の16発とかなり多いところぐらいだろうか
資金もなかったのでためしに10発程しか試射していないから、命中率なんて知れたものだ
でも、30万円も出して、2メートル先の的に当たらないトカレフよりましだろう
その2丁を金に目がくらんだアメリカ兵がおまけにおいて行ってくれたホルスターで巻きつけてある

それだけ確認をすると、ボストンバックのジッパーを閉めて立ち上がった
凹んだ形状になっている自販機のブースから、一歩足を踏み出すとムッとする熱気と
通勤ラッシュの人の臭いに吐き気が一気に催した
目で、WCの看板を探す。あった。人ごみをかき分けボストンバックを引きずりながら走った
都会はいい。真夏にロングコートを着た不審な奴がいても誰もがうつろな目で、前を向いていく
個室に飛び込んだ。吐いた。しこたま吐いた。しばらく食べてないので胃液しか出ない
ミネラルウォーターとボルタレンの錠剤が半分溶けているのが見えた
涙、鼻水顔中どろどろになって吐いた。一度個室を出て顔を洗面台で洗った
「あの……大丈夫ですか?」
隣で手を洗っていた女がおどおどしながら喋りかけてきた
嘔吐する声も聞こえていたのだろう
「あ、ああ。昨日飲みすぎちゃったみたいだ」
取り繕うように無理やり笑顔を作った
「顔、真っ青ですよ?」
心配そうにのぞきこまれる
「大丈夫、大丈夫、ありがとう」
そういいながらハンカチ代わりのバンダナを個室に忘れてきたことに気づいた

(ちっめんどくさいメスだな。どっちにしろ一緒だし今消すか……)
私は軍隊などいたこともないし、殺人のプロでもない。色んな知識やなんかはDVDやインターネットで学んだだけだ
だから抜き打ちをするときは「男たちの挽歌」でチョウ・ユンファがやっていたように、右手で左腰の拳銃を抜くいわゆるクロスドローばかり練習してきた
そっと右手をコートに伸ばしてベレッタを握ろうとした、まさにそのとき
「ハイ、ハンカチ。使って」
と女がハンカチを差し出してきた。面喰いながらも会話をしないわけにはいかなかった
「え?あ、ああ、いいの?」
「うんうん。あ、それバーゲンで買った奴だから返さなくていいよ~」
「あ、うん……ありがとう」
「じゃあ私電車来ちゃうからいくね、バイバイお姉さん」


個室に戻ると、天井に煙探知機がないのを確認して今朝封を切ったばかりの煙草にジッポで火をつけて、肺胞の奥深くまで煙を吸い込みニコチンを体中にいきわたらせた
こんな日に限って見ず知らずの他人に厚意を受けるなんて、何て皮肉だろう
リスパダールだけは嘔吐する前に吸収されていたようで、若干落ち着いてきた
もう着る必要のないロングコートを、咥え煙草のまま立ち上がり脱いだ時
一枚の封筒がポケットから落ちた。中の便箋をひっぱり出し再度読んだ。昨夜書いたものだ
一通り読み終えると、封筒を握り潰し汚物入れにつっこんだ
便箋にはジッポで火をつけた。持てなくなるほど焼けたところで便器内に放り投げた

「お父さん、お母さんへ」

という冒頭の文章の部分だけが焼け残り、煙草を吸っているうちに水が浸みて沈んでいった
「バカか、私は」
と一人でつぶやき煙草も一緒に便器に放り込んだ。浮いてこないように適当にティッシュペーパーを丸めて、一緒くたにしてレバーで水を流した
しばらく見ていたが浮かんでくる様子もないので、準備に取り掛かった
髪をまとめてバンダナを頭全部を覆うようにかぶる。この暑さだと汗止めに十分活躍してくれそうだ
サスペンダー式になった弾倉帯には4つのポケットがあるが、そのうち3つにベレッタの9mmパラベラム弾15発の詰まったマガジンをねじり込み、残りの一つには煙草を入れた
20個のAKアサルトライフル用のマガジンは、腰のガンベルト、脛、太腿、にパンツの上からガムテープで貼った
最後にヒートシートからベタナミンを6錠取り出しペットボトルの水で噛み砕きながらのみほすと、尻ポケットに、ボルタレンとのこり3/4ほどになったミネラルウォーターのペットボトルを無理やり押し込んだ

即効性のあるベタナミンが早くも、私の脳内快楽物質の分泌を促す
AKのマガジンを一回リリースしトイレの床でコンコンッと詰め直しまた銃に込め直した
動作不良なんかで私の舞台を終わらせたくない

さあ、開幕の時間だよ

私はAKを担ぎ上げると、WCのドアを開け改札口まで走り出した



つづく


にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 躁うつ病(双極性障害)へ にほんブログ村 介護ブログ 親の介護へ

web拍手 by FC2

Response: コメント: 0  トラックバック: 0  Edit 07 16, 2011 Back to top
ブログパーツ

Comment

非公開コメント(非公開にした場合、匿名性を尊重しレスしない事があります)

Plofile

灰音



name:灰音(ハイネ)

Entry & comment
TOP 10 Ranking
Updated Information
あくまでも、私個人の好んで購読するブログさんの更新情報で、いわゆるリンクとは違いますので、ご了承ください。またクリック先でのトラブルについては一切当サイトは関知いたしませんので、自己解決をしてください
Category
QR
QR