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夏の凶悪(6)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
「と、その前に全員でショッピングといこうじゃないか。店長、売り物だけど勝手にもらうよ?さっきの金で事足りるだろう」
「ああ、いいぞ」
店長がうなずく。
「アルコール以外なら何でももってこい。しばらくここから動けないから余分目に持ってくるといい。それからジャージ、文具コーナーの横に灰皿とジッポオイルがあったからもってこい。ジッポオイルはあるだけ持ってこい。いいな?」
ジャージはコクコクと頷くとぴょこんと立ち上がると、小走りで文具コーナーへと向かった
それを機に男たちは、ゆっくりと立ち上がって各々が好きなコーナーへと歩き出した
「5分だ!5分で済ませて戻ってこいよ!」
声を張って、急ぐよう促した
「店長、控室に工具箱と三脚があったな?それを持ってきてくれ」
「わかった」
店長は相変わらず飄々とした足取りで控室に向かった
私は新しいミネラルウォーター一本と、オロナミンCの瓶を5本カゴにいれると、トイレに向かった。
オロナミンCの中身を全部流し、ついでに用も足した
その足で控室に向かう。店長はもう居なかった。やはりあった。掃除用のタオルと雑巾が数枚ずつ干してある。乾いたのを選んでカゴにいれ、待機位置に戻った
戻ってきているのは、男2人と店長だけだった。店長に三脚を持たせて、裏口に回った。
突破されるとしたらまずここだ、と思った。店舗と裏口の三和土の3cmほどの段差を利用して、裏口のドアノブにぎりぎり架かるよう店長に指示した。外開きのドアーだから、外部から開けると三脚が倒れて知らせてくれるという寸法だ。また突入班が侵入しても複数で一斉に入れる幅のないところで、三脚の踏み台が足場を悪くしてくれることも期待している

待機場所にもどると全員が揃っていた
折り畳み椅子に座ると、腰に巻いたガンベルトの背中にあるナイフシース(ナイフを入れる鞘)から、ナイフを取り出した。映画ランボーのようなギザギザのコンバット(サバイバル)ナイフではなく、俗にダガーと言われる刃渡り18cmのファイティングナイフだ。腕力や筋力のない私には、コンバットナイフは重すぎるし、薙いだ後の慣性を止められず、切り返しが遅くなる。そもそも殺傷用ナイフというのは「突く」のが目的であるから、私にはダガーで十分だ。自分の持ってきたカゴを椅子に引き寄せ、タオルを取り出すとナイフで切り裂きながらTVに目をやった。まだ動きがない。焦れてくる。向こうさんも炎天下の中焦らし作戦に入っているのだろうか。

「今度こそ自己紹介をしてもらおうか」
タオルを切り裂く作業を続けながら一番奥のスーツを見た
「お前からだ。名前と仕事だけでいい」
スーツがビクっとなった。そういえばだれも持ってきた食糧に手を付けてない
「飲み食いしながらでかまわん。初めからお前たちを誰一人殺すつもりはない。私が目的を果たすまで人質の役を演じてくれればいい。小学校の学芸会でやっただろう?あれだ。」
しゃあしゃあと嘘を笑顔で言ってのけた。本心ではこいつらは盾で、命がどうなろうが別に構いはしない。
スーツは目の前のアクエリアスの封を開けるとゴクゴクっと一気に飲み干すと、大きなため息をついてこっちを見た
「本田といいます。仕事は自動車のセールスマンです」
「まさかホンダじゃないだろうな?」
冗談交じりで聞いてみた。本田はその途端顔を真っ赤にしながら
「それが……トヨタでして。よくからかわれます……」
思わず声を出して笑ってしまった
「わかった。今から解放まではお前はトヨタと呼ぶ。次。」
次の男はまだ若そうなのにハゲていた。モジモジしている姿が気色悪い
「……はい。若松と言います。仕事は……現在就活中です」
「お前、今年でいくつになる?」
「42になります。」
「リストラされたのか?」
「はい……不景気のあおりで勤めていた会社が倒産してしまい、今はハローワークに通う毎日です。」
「……そうか。じゃあお前は今からリストラと呼ぶ。いいな?」
リストラは力なくうなずいた。就活もうまくいってないのだろう、完全に負け犬の目をしている。
「次。」
タオルを切り終わったので、今度は雑巾を切り裂き始めながら3番目の男を見た。妙に堂々としている
「矢口、ヤメデカだ」
「ヤメデカってなんだ?」
「辞めた刑事のモジリだよ。ヤメ・デカ」
ナイフを持つ手が、ピタッと止んだ。矢口をじっと見る。
「どこにいた?」
「警視庁。別に名前が違うだけで、県警と変わりゃあしないよ。東京都警察とでも思ってればいい」
「何でやめた?クビか?」
「ああ、クビだ。実質はな。今は免許センターに天下って判子だけ押してるご身分だ」
ナイフを左手に持ち替え、右手で左腰のベレッタを抜き、矢口にポイントするとセーフティーを外し、ハンマーを起こした。一気に緩みかけていた空気が凍りつく。
「高知県警とのつながりは?」
「ないね」
「以前の部署は?」
「捜査一課特殊犯捜査第1係」
「なんだそれは」
「つまりあんたみたいな、強行犯のなかでも立てこもりとか人質を取って籠城する奴をとっちめる部署さ」
椅子から立ち上がり、ナイフを椅子に置くと、ベレッタをしっかりと両手でホールドし、スタンスをひろげて、しっかりと矢口の眉間に狙いを定めた。
冷房が効いているのに、心臓が高鳴り嫌な汗が顔を中心に吹いてくる。ホットフラッシュだ。こんな時に限って……。
「あんた、びびってるのか?」
矢口が笑った。それには答えなかった。銃をポイントしたまま、口を開いた
「お前は何で今まで無抵抗だった?強行犯相手のプロだったなら、なんとでもできただろう」
「いや、だからヤメデカって言っただろう。立てこもり犯相手にいくら現場で頑張っても、必ず犠牲者が出る。挙句の果てに上の都合で勝手に強行突入、また犠牲者が増える。こっちも死ぬ。そんな不毛な職場に嫌気がさしてな。完全な縦社会の世界で俺は雲の上の存在の管理官様を思いっ切りボコっちまった」
「だからなんだ」
「だから、今度は逆に人質側になってみるのも悪くないって思ったのさ。犯人でもよかったんだが、なにせ女房とガキがいるからな。そういうわけだから俺はお前さんに反抗もせんし、撃たれても遺族年金はたっぷり降りるから困りはせん。安心して銃をしまいな」

いささか短絡的な方便にきこえた。だがまあこちらも今は殺す気はないし、怪我をさせても厄介ごとが増えるだけだ。銃のハンマーをゆっくりと戻し、セーフティーをかけるとホルスターにしまった。ナイフを椅子の上から拾い上げると再び腰かけた。
ナイフを弄びながら、深く深呼吸をする。エアコンの冷気が顔中に浮いた汗を乾かしていく。気が付くとまたリーマスの副作用で手が震えている
「お前さん、どっか悪いのか?」
手に持ったナイフにまで震えが伝播しているのを見て、矢口が言った
「気にするな。すぐに収まる。それより次。」
矢口を一睨みして、次の男に視線をやった。若い。たぶん私の半分の歳ぐらいじゃないだろうか
「あ、僕は町田って言います。大学生です。今日は面接の日でスーツ着てます」
この時期になって急いで髪を黒く染めたのだろう。不自然な黒に所々茶色い毛も交じっている。
「じゃあ、リストラののおっさんと同じか」
「いや~~勘弁してくださいっすよ~っあんなおっさんとは違うっしょ~」
その言葉使いに無性にイラついた。椅子を蹴って立ち上がった。町田の正面に立ち髪をつかむとカウンターまでひっぱり出した。
「あ、ちょ、マジ痛いって、痛えからやめろよババア!!!」
まあ、本音はこんなもんだろう
「おい、ジャージ。こっちへ来てこのボケ押さえてろ」
「はいっ!」
同世代の大学生というコンプレックスからか、ジャージの目は燃えていた。走ってくると町田を後ろから羽交い絞めにした。バタつく町田の額にナイフの切っ先を軽く突き立てた。昨晩砥石を使って研ぎ澄ましたファイティングナイフの切れ味は抜群だ。町田の傷から細い血が糸のようにあふれ出た。そのまま切っ先を滑らしX印を描いた
「痛てぇ、何すんだよ!」
まだ暴れる町田に怒りが再燃した。
「お前は面接官にもそういう態度で接するのか?」
そう言って頭頂部の掴んだ髪の毛を根元からざっくりとナイフで切った。そのままその周りの毛も切っていき、耳の上あたりまで円形になるよう切った
「な、なにやってんだよう、やめてくれよう」
ハラハラと落ちてくる自分の髪の毛をみて一気に不安になったのか、小さな声になった町田がうめく
掴むところがなくなったので町田の耳をつかみ喉にナイフを当てる
「ジャージ、抑えるのはいいからそこの揚げ物機の横の洗面台から石鹸を濡らしてもってきてくれ」
うんうんお頷いたジャージは、よく泡立てた石鹸とともにカウンターの雑物入れに使っている大きめのナッツの缶に、水を満たして持ってきた
「判ってるじゃないか」
「へへへ」
と顔を見合わせいやらしい笑いを互いが浮かべた。もう一度ジャージが町田を羽交い絞めにする。
石鹸をもう一度よく濡らし町田の頭皮に残った髪の毛を綺麗にナイフでそり上げていった
「痛い痛い痛い痛い」
町田が悲鳴を上げるがお構いなしに作業を続けていった。言うことを聞かない犬にはしつけが必要だ

所々、刃を滑らしてしまったが、頭の上半分の髪の毛のない男が出来上がった。
ジャージが声を出して笑っている。私はジャージに町田をまかせ、石鹸を持つと洗面台に向かった
中性洗剤もあったので、それをスポンジにしみこませ刃先を何度も何度も、頭皮と髪の毛の脂が残らないよう洗った
「ジャージ、もういいぞ。戻ってていい。よくやってくれた。」
ジャージに対しては、褒めることを忘れてはいけない。町田を立たせるとナイフの切っ先でスーツの背中をつつきながらトイレへと誘導した。鏡の前に立たせる。町田はぐったりとうなだれた。すっかりおとなしくなった町田をみんなのいる場所に連れて行って座らせた。わたしは定位置に倒れた椅子を起こし座った
「町田。お前は年長者を敬う心がない。私は加害者だから仕方がないが、あのリストラされたおっさんはお前と立場は一緒で、お前の何倍も人生経験を積んでいる。言葉に気を付けろ、ガキ!」
「はい……わかりました」
町田はうつむいたまま返事をした
「顔を上げろ、そしておっさんにわびろ」
「いや、私はそんな……」
リストラが卑屈な困った顔を浮かべ目の前で手を振る
「町田」
町田が立ち上がりリストラの目の前に立ち、座ると
「おっさん、マジでごめんなさい」
と頭を下げた
「い、いいよいいよ」
とリストラは町田の頭を上げさせている。今一つ言葉使いも気に入らなかったが、今どきの若い子はこんなものなのかもしれない。やれやれ、とおもい視線を走らせると矢口と目があった。矢口も肩をすくめて困った顔で笑っている。
「よし、町田。元に戻れ」
「はい」
なかなか従順な犬になってきたじゃないか
「お前、カッパとザビエル、どっちで呼ばれたい?」
一斉に皆が顔を俯け肩を揺らせながら、必死で笑いをこらえだした。町田も顔を真っ赤にしている
「……カ、カッパで……お願いします」
その答えを聞いた途端トヨタがブッととうとう笑いを噴き出してしまった。こうなったら誰も我慢できない。全員が爆笑の渦に囲まれた。町田も自分自身がおかしかったのか一緒になって笑い出した

プルルルルルルルルルル……プルルルルルルルルルル

私のヒップポケットから突然見知らぬ電話の呼び出し音が鳴った。笑いが一瞬で止み、緊張が走る
電話を取り出し、ナンバーを見る。090からはじまる携帯番号だった。TVに目をやった。指揮所らしきパトカーの裏で一人の私服警官が携帯電話をかける様子が映っていた。
遊びの時間はおわったようだった








つづ……かないかも?


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