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夏の凶悪(8)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
「なんだ?医者が来たか?」
電話の向こうの安藤に向かって言った。
「いや、もう向かってるそうだからすぐに到着するはずだ」
「そうか。急がせろ。用件はそれだけか?」
「違う。人質がいるだろう?何人だ?安否を確認したい」
人質達を見まわした。
「7人だ。名前は勘弁してくれ」
実際は6人だが、一人水増ししておいた。
「……まあいいだろう、声を聞かせてくれないか?」
しばらく考えた。受話器を塞ぐと、全員を一人一人見た。
右手の電話を左手に持ち替える。空いた右手でベレッタを抜いた
「県警の安藤警部という豚が、お前らの安否を確認したいらしい」
「……」
「一人一人さっき私が付けたニックネームと体の状態だけを言って次に交代しろ。店長、スピーカーホンにするにはどうしたらいい?」
店長が身を乗り出し、なにやらボタンを押すと電話機から、外の喧騒が漏れてきた。
「なるだけ、おどおどとしてくれ。人質の役を演じてるつもりでな」
全員が頷いた。電話を塞いだ手を離す。
「今から人質一人一人に代わる」
「ああ、わかった」
安藤の声が店内に響く。店長にまずは電話を渡した
「店長です。無事です。ただ、銃を突きつけられて軟禁状態です」
「拘束はされていないのか?」
店長がこっちを見る。私は右手でベレッタを店長にポイントしたまま、左手の人差し指を口に当てて「言うな」というサインを出した。店長はうなずくと
「それに関しては言えません。撃たれます。」
「そうか」
今、安藤警部は必死で頭の中でコンビニ内の状況を把握しようと、情報を整理しているに違いない。
隣にいる矢口に電話を渡そうとする店長を左手を広げて、制するとまた口に左手の人差し指に手をやって一同を見渡した。
その左手を胸のサスペンドベルトに差し込み、煙草を取り出すと火をつけた。
パッケージをみんなに差し出すと、矢口とリストラがにじり寄ってきて一本ずつ取った。
ジッポで火をつけてやる。手でシッシと払うジェスチャーを見せると、2人とも元の位置に戻っていった。
「おい!聞こえるか?おい!」
その間も安否を気遣う安藤警部の声がスピーカホンから聞こえてくる。
「大丈夫か?おい!返事をしてくれ!」
大分焦れているようだ。煙草を吸い終わった。矢口はヘビースモーカーなのか指が焦げるくらい根元まで吸い込んで足元の灰皿でフィルターをすり潰すように火を消し、持ってきていた缶コーヒーを一口すすった。
私は店長に頷き、矢口に電話を渡すよう目で合図した
矢口は電話機を受け取ると、まだわめき声が聞こえる受話器に向かって
「ぎゃーぎゃーうるせえぞ!」
と一喝した。この馬鹿。怯えろって言ったのに台無しだ。だが無性におかしくなって必死で笑いをこらえた。
「人質の矢口だ。無事だ。」
その一喝に驚いて無言になった安藤刑事は、一瞬の間をおいて
「あんた本当に人質か?犯人の一味じゃないだろうな?」
といぶかしんだ。もう私は笑いがこらえきれなくなって、小さく肩を揺らせながら笑い声の出そうになる口を左手でふさいだ。
「さあ、どうだかな。まあ人質っていうのもそう悪くないぜ」
矢口はそう言い放つと、ジャージに電話機を渡した。
「ジャージです。こわいよ~こわいよ~。おまわりさん早く助けてよ~~」
ジャージは見かけによらず演技派だった。
「君は若いね?大丈夫か?ひどいことをされたりしてないかい?」
「髪の毛、カッパみたいに剃られちゃったよ~~こわいよ~~」
ブッと思わず吹き出してしまった。それはお前じゃないだろう。ザビエル刈りにしてやったのは大学生のカッパの方だ。
ジャージは涙と鼻水まで垂らして切々と受話器に向かって話しかけている
もういい、というように手を振るとジャージはニヤッと笑い、本物のカッパに電話を渡した
「僕が本物のカッパです」
またもや噴き出しそうになった
「なんだと?じゃあカッパ頭が2人いるということか?」
大真面目に返答してくる安藤刑事に全員が震えながら笑いをこらえた。
私は、カッパにまたシーっとサインを送った
「もうこれ以上は言えません。言うと殺されちゃうんです。今銃口が僕を狙ってます……」
そう言って電話を手でふさいだ。
「何!危険な状況なのか?銃って何で狙われてる?拳銃か?ライフルか!?」
首を振って答えるな、とサインを出し、TVをみた。動きはない。必死に何かを書き留めている安藤刑事の様子が映っていた。最近のTVの解像度と技術の発達は凄い。警察の動きが丸わかりだ。
左手を広げ、そのまま待ての合図をだすと、椅子から立ち上がりジャージに向かって
「よく見張っておけ」
と言い残すとトイレに向かった。入る前に振り返ると、ジャージは弾無しベレッタでみんなを威嚇している所だった。
トイレに入り施錠すると、急に吐き気が込み上げ、便器に思いきり吐いた。やはり水しか出てこない。
指を思い切り喉の奥まで突っ込み、無理やり吐いた。もう胃液が糸を引いて出てくるだけだった。
ティッシュで口周りをぬぐい、突っ込んだ唾液まみれの指を拭くと、改めて便器にまたがり小用を足した。
装備が装備なだけにズボンの上げ下ろしだけで大変だ。
開錠して、出てすぐの化粧台で改めて口を濯ぎ、手を洗うと顔を洗った。さっきまで後ろ髪を束ねていたバンダナをほどき、顔と手を拭き、今度は朝のように頭巾かぶりにかぶり直し後ろで固結びにした。
ヒップポケットから、リーマス、デパケン、リスパダールを取り出し、洗面所の水で飲みほした。
何事もなかったように、元の位置に戻り腰かけると、ジャージに「ごくろう」といった。
ジャージは喜んだ顔で自分の定位置に座り込んだ。カッパの電話を取り上げた。
なにやらまたギャーギャーと叫んでいる。気にせず、電話に向かって告げた
「もうめんどくさいから、あとの3人は一度に紹介さすぞ」
受話器を固く塞ぎ、リストラとトヨタに目をやった
「いいか?順番は、リストラ、トヨタ、リストラだ。3人目何て居やしないからな。リストラは一回目は普通に言えばいい。2回目は元気よく、そうだな……リストラされた会社への恨みをこめて声を絞り出せ」
リストラの瞳に火がともった。うまくやってくれそうだ。
「名前は何にすればいいでしょう」
リストラが尋ねてきた。一思案した。考えるのもめんどくさい。リストラはハゲていないがあえてハゲにした。
「ハゲ、でいけ。嫌なハゲが会社にもいただろう?
「あ、はい!」
図星だったらしく、力がこもった返事が返ってきた
「おいおい、ちゃんと使い分けてくれよ?力むのは2回目だけだからな。いくぞ。」
そう言うとリストラに電話機を持たせた
「あ、こんにちは刑事さん。私はリストラです。待遇もよく無事にやっています」
何なんだそれは?と思いつつ目で電話をトヨタに渡すように合図した。
コクリとうなづいたリストラがトヨタに電話機を渡す。
「あ、トヨタって言います。元気です。」
そこまで言ったかと思うとリストラが電話機をトヨタの手から奪い取った
「おう、俺はハゲってんだ。無理やり人質になったわけじゃねえぜ!いいか?自分からなったんだ」
豹変ぶりに焦ってベレッタの照準をリストラに合わせた
「俺はよう、別にこんな糞みたいな世の中どうだっていいんだ、今死んだっていい。なんもいいことなんかありゃしないしな。だが、犯人さんから銃を奪ってでも、お前らクソ公務員の一人はブッ殺してやりてえなあ!!」
私は立ち上がり「そこまでだ」というとリストラから電話機を奪い取って、脳天に銃口を押し付けた。
その場で電話をハンズフリーから元に戻す
「安藤さん、聞こえたか」
「ああ……」
「7人確認できたな?」
「ああ、全員無事で何よりだ。だが最後の奴は危ないなあ」
「そうだな。もしかするとこっちに寝返るかもな」
「そうならんことを祈るよ、ああ、間もなく医者が到着するそうだ、また電話する」
電話を切り、ヒップポケットに収めた
「やりすぎだ、リストラ」
銃口で脳天をグリグリと押さえつける。リストラは熱が冷めたのか、しぼんだ風船のようにシュンとなって座っていた。
銃で人を脅す場合、背中にしろ後頭部にしろ、眉間にしろ本当は相手に密着させてはいけない、という大原則がある。
剣術と同じように、銃にも間合いというものがあって拳銃の場合、約1m程度と言われている
なぜなら体術に優れた人間や護身術、武術をやっている者にとっては絶好の間合いであって、密着などさせようものなら、一瞬で奪われる。即座に打ち殺すなら話は別で、この理論はあてはまらない。
素人は5m離れたらもう動き回る人体のような的には当たらない。体ごとぶつかるつもりで超至近距離で撃つのが殺傷率を高めるポイントとされる。

私はその原則に乗っ取り、銃をリストラからゆっくり話すとホルスターに収め、椅子に戻って腰かけた
その瞬間世界が揺れた。何時もの眩暈だ。ガタンと音を立てて椅子から落ちた。
くそっ!こんな時に……目の前がグニャリと歪み身体がコールタールの海に沈みこんでいく感覚。
目の前が真っ暗になった。






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Response: コメント: 2  トラックバック: 0  Edit 07 23, 2011 Back to top
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Comment

めまいくらいで終わらすような、お粗末な話は許さん!

人質たちは、失神してる人なんか見たことないから、
あわてて、犯人にバケツの水をぶっかける。
犯人は何事もなかったかのように、目を覚ますのら

お母ニャンさま

あ、つづくっていれてなかったね!
まだ話は中盤です……あしからず。。。
非公開コメント(非公開にした場合、匿名性を尊重しレスしない事があります)

Plofile

灰音



name:灰音(ハイネ)

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