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夏の凶悪(9)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
犬が顔を舐めるような感触で、うっすらと意識が戻ってきた
目を無理やり開けると、クリーム色の天井が見えた。一瞬自分がどこにいてどういう体勢なのかがわからなくなる。
視界の隅でカッパが濡れたタオルで私の顔を拭いていた。
身体を起こした。首と肩が痛い。周りを見回した。6人の男たちの心配そうな視線が痛かった
寝転んでいた場所を見ると、枕替わりのつもりかスーツの上着が畳んで置いてあった。
Yシャツの格好になって片手に濡れタオルを持ったカッパを見て、カッパのスーツだろうと見当をつけた。
はっとして、腰に手をやる。ホルスターにベレッタは収まっている。だが肩にかけてあったAKがない。
周りを探した。ない。また嫌な汗が噴き出てくる。
「そう焦りなさんな。」
矢口がジャージを指差した。ジャージを見ると、これだけは渡してたまるもんかという形相でAKをつかんでいた。
「ジャージ、銃を守ってくれてたのか」
頷くジャージ。こっちに向かって両手で捧げるように、AKを差し上げた。
「ありがとうな。」
ジャージから銃を受け取る。カッパを見た。
「お前が私の世話をしてくれていたのか?」
「ええ、ま、そっすね。汗とか超凄かったし」
「そうか。ありがとう。」
「いや、まじびびったすよ。いきなり倒れるし」
はっとした。
「私が倒れて、どれくらいたつ?」
「ん~5分から10分じゃないすかね」
「電話は鳴ってなかったか」
「あ、一回なってたけど切れちゃいましたよ」

停まりかけていた記憶を猛スピードで巻き戻し、再生し直す。これからのアクションプランを組み立てる。
知らず知らず煙草をくわえて火をともす。矢口と目があったので、パッケージを投げてわたした。
矢口は2本抜き出すと1本は耳に挟んだ。そのままパッケージをリストラに投げ渡す。リストラは1本抜くと私にパッケージを持って返してきた。ジッポも同じように回した。

「しかし、なんで皆そろいもそろって逃げなかった?特にカッパ、お前なんか恨みたっぷりだろう?それなのに私の世話なんかして」
そこが一番の謎だった。カッパを見る。
「いや~俺いじめられっ子で、今までいいこと何てなかったんすよ。1浪してようやくFランクの大学受かって、大学デビューだ!なんて髪も染めてチャラい格好して自分変えようって思ってたんすけど、人間そう変われるもんじゃないっすね。大学でも3年間一人ぼっち。マジ最低でしたよ。で、面接も何社も落ちて、結構どうでもいいかんじで。それに月島さんでしたっけ?あんたが倒れて、マジ逃げようかと思ってたんすけど……汗みどろになって呻いてるの見てなんかほっとけなくって。まあ、髪型はどうせなら坊主にしろよって感じなんスけどね」
そう言って照れたように背中を向けると、小走りでカウンター内の手洗いで、タオルを洗って絞り、戻ってくると「それに、俺の中の何かを変えてくれるような気がしたんすよね」
といいながら私に手渡した。受け取ったタオルで顔を拭いた。

ジャージが口を開いた
「無事でよかった~。僕はちょっと頭の回転が鈍いらしいんです~。でも犯人さんは、僕を信用していっぱい使ってくれたし~、人に信用されて使われるって、気持ちいいなあ~と思って。ずっとお母さんやお父さんに迷惑かけてたから~、もうここで僕が死んでも生きてても、かける迷惑は一緒だから~。別に犯人さんに殺されるのは何とも思ってないよ~。最後に人の役に立てるんだからね~」
空の銃を持たせていることに、胸が少し痛んだ。

「私はもうこの年でクビになった男です」
声の主はリストラだった。
「家族からの冷たい視線。毎日ハローワークで変わりもしないコンピューターディスプレイを見て、昼は公園でパンをかじって、公園の水でのどを潤す。そのままベンチに座って日が暮れるのを待って、家に帰ると娘や女房にはゴミのように扱われる。居場所がないってわかりますか?ここなら警官隊に殺されても、月島さん、あなたに殺されても家族には保険金が下りる。むしろ電話で私の首を切った前の会社の人事部のハゲを呼び出して、月島さんの銃で打ち殺したい気分なんですよ」

「僕も一緒です」
割り込むようにトヨタが喋りだした。
「月島さん、社畜ってわかりますか?」
「ん?どういう字を書く?」
「会社の社に、家畜の畜です。まさにうちの会社なんて、社員を家畜の如く扱うんです。人間以下です。やれセールス成績だ、クレーム処理だ、朝9時に出勤して夜は24時近くまで働きづめで、それでも車が売れないと合同ミーティングでいちいち名前を挙げられ、みんなの前に立たされ反省文を読まされるんです。もういやだ。できることならリストラさんと一緒で、何かデカいことやってやりたいんです。」
わかる気持ちと、ただの愚痴じゃないか、という気持ちが交錯する。

「リストラ、トヨタ、言っておく。お前らは弱者だ。もちろん私も弱者だ。弱者は必ず強者に食われる運命にある。
それが嫌なら、戦え。喰らいついてやれ。私はここで最後まで戦う。理不尽な社会相手にな。
お前らは最後まで戦えるか?私についてこれるか?」
リストラ、トヨタ、2人ともが力強く頷いた
「そして、すべてが終わった時にまだ無事だったら、今日のことを思い出して社会で戦い抜け」
カッパ、ジャージ、リストラ、トヨタが頷いた。

耳に挟んだ2本目の煙草に、1本目の煙草の残り火を移しながら、矢口は不敵な笑顔を浮かべていた
「矢口さん、あんたはなぜ残った?あんたなら人質皆を先導して脱出できたはずだ」
目をつぶって2本目の一服を吸い込むと、ゆっくり煙を吐き出しながら矢口は答えた
「面白いからな。こういう生の現場で、犯人側ってシチュエーションは。体験してみたいって言うのが人間の性だろう?それにヤメデカって言ったろ。こいつらがお前さんを介抱してる姿を見てな、ストックホルムシンドロームってのが実在するのか、もっと見たくなったのさ。もっとも俺もはまってる口かもしれんが。まあ、警察がどう動くかぐらいはアドヴァイスできるはずだ。精々気張ってみな」
ニヤリと笑ってまた煙草を吸った。

店長を見た。
「言ったろ?警察には腹に一物もってるんだよ、ワシは。ワシの娘ぐらいの歳の子が、警察相手に大立ち回りしようってんだ。こりゃほっとけないだろう。女を先に逃がすあんたの根性も気に入ったしな。それに……」
「それに?なんだ?」
「ワシは一応この店の店長だからな」
その一言で6人に軽い笑いが沸いた





つづく





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Response: コメント: 0  トラックバック: 0  Edit 07 24, 2011 Back to top
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