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夏の凶悪(10)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
店長に再度説明を聞いた。店の窓ガラス部分は縦ワイア入りの強化ガラスにガラス飛散防止の粘着シートを挟んで、ポリカーボネイトの一枚ものを密着させ、一番店内側には薄い無色透明に近いUVカット機能付きの偏光シートが張られていること。車の衝突や、タイヤのはねた小石(これは油断ならない。後続車両のフロントガラスに当たった場合、平気で突き破る威力がある)も全てガードできる高価なものなのだそうだ。また冷暖房効果が極端に上がるため、このチェーン店では5年前複合ガラスの技術が市販されだしてから順次取り換えたそうだ。
ただし自動ドアーだけは機能上、そのガラスが使えず、メーカー製の強化ガラスにガラス飛散防止フィルムを貼っただけのものらしい。
TVモニターを見ると安藤刑事の横に、見慣れたG病院のT医師が白衣を脱いだ、ポロシャツとスラックス姿で、小脇に封筒を抱えている。事前に頼んでおいた私のカルテを持ってきているのだろう。
店長に粘着テープとマジックペンを売り場から持ってこさせた。
店長に電話を渡す。
「私には使い方がわからん。ここの床に安藤警部の電話の番号を書いてくれ。」
店長は、器用に電話を扱い着信履歴から安藤の携帯番号を見つけ、床に書いてくれた。
書き終わっても何かまだ電話をいじっている。しばらくして私に電話機を手渡すと
「ここの【短縮】っていうのを押して、ダイアルの①を押せば、あの刑事さんにつながります」
「そ、そうか。ありがとう」
普段から電話など滅多に使ったことのない私は、そんな機能もあるのかと驚いた
自宅にはADSL専用回線しか引いてない。パソコンのメールのやり取りで今は何でも取引できる。
かかってくる相手もいなければ、かける相手もいない。電話はいらないツールだった。
どうしてものときは、忘れないように左腕にTATOOした電話番号に公衆電話からかけるだけだった。

わざわざ人質たちの安否確認の電話の取り次ぎ時間を引き伸ばし、人質の位置関係をわからないようにした
こちらからは一切コンタクトを取らなかった。
向こうは炎天下、こっちはエアコンが効き、飲み物食べ物には不自由していない。
人質たちは、一様に協力的だ。心配と言えば自動ドアーと裏口か。金融機関のようにシャッターが閉まらないのが痛い。
無いのを承知で店長に聞いてみた。
「店長、まさかとは思うけどこの店、シャッターとかないよな?」
「あるよ。」
「え?」
驚いた。盲点だった。
「あ、でも普通の全面シャッターじゃなくて、わかるかなあ……ド忘れしちまった。あの鉄格子みたいなステンレスのバーが並んでるやつだ」
なんとなく街で見かけたことがある気がした。
「ああ、視界もちゃんととれるやつだよな?自動ドアーにもそのシャッターは降りるか?」
「そうだ、そのタイプのシャッターだ。もちろん自動ドアーにも降りるぜ。3つのシャッターが並んでて、ドアに一個、ガラス面に2個だな」
「操作盤はどこにある?」
「店内と、屋外に一個ずつだな。この店は24時間営業だからシャッターなんか使わないんだが、台風でやばいときなんかは屋内から操作して閉めて、裏口から出る。入るときも一緒だ。屋外のはキーを使わないと操作盤の入った箱が開かないようになってる。」
「バールでコジたら開くんじゃないか?」
「いや、どうだろうな。一回どっかの悪がきがバールか何かでコジたらしくて、蓋がひん曲がりはしてたが、鍵そのものは何ともなってなかったな。」
「外のは、どこに設置してある?」
「あの自動ドアーとガラスの間。今ちょうどコピー機が置いてあるところだ。あそこは壁だからな」
「そうか……ありがとう」
向こうがあれからコンタクトを取ってきていない。焦らす作戦なのだろう。
だが状況の利は5分と5分か、若干こちらに傾いているかのように思えた。ガラスに一番近いコーナーに行く。
化粧品や雑貨のコーナーだ。今どきのコンビニはいろんな品物が揃っている。カゴを持ち、まずは月刊漫画雑誌のなるだけ厚いものを5冊カゴに放り込んだ。肩が若干痛んだ。さっき倒れた時に打ったのだろう。
コーナーの奥に行くと季節柄か、サングラスと帽子が無造作に並べてあった。スポーツタイプのサングラスを7個と、キャップ帽を2個取り、皆の元に戻った。
「そろそろショータイムが始まる。この中で持病持ちはいるか?」
「ニコチン中毒」
矢口が不敵に冗談をかました。
「レジの裏の煙草の陳列棚から好きなだけ取ってこい。あとめんどくさいからライターもな」
矢口は手を挙げるとスタスタと歩いていき、すぐ戻ってきた。私の銘柄を見ていたのか1パッケージ、セブンスターと、ライターをリストラに投げて渡した。椅子に座ると悠々とセブンスターのパッケージの封を切り、火をつけて吸い始めた。
「後は居ないな?」
全員が頷く。
「よし、じゃあ今から全員用を足して、新しい飲み物を持ってこい。10分待つ」
それぞれがいよいよか、というように引き締まった顔になっている。ゆっくりと立ち各々がトイレやドリンクコーナーに向かった。
私は古いパッケージから煙草を取り出し、火をつけるとゆっくりと煙を楽しんだ。
もう出すべき水分は出し尽くしているような気がする。
TV画面をじっと見る。NHKのカメラマンとリポーターはそのままの配置だった。
もう一度遠目にしか見えないその顔をじっくりと観察して記憶した。ふと気づき、音声担当の顔を見ようとしたがしゃがんでいるのか車体の陰に隠れて見えなかった。

やがて全員が揃った。全員ミネラルウォーターを持ってきていた。ジャージが2本持ってきたペットボトルのうち1本を私に無言で渡した。
「私はいらんが?」
不思議に思いジャージを見上げると、ジャージの後ろからカッパが
「姉さん、ぜってー飲んどいたほうがいいっすよー。さっき倒れた時脂汗っつーの?超ヤバイぐらいでてたもん」
と声をかけてきた。いつの間にか「ババア」から「姉さん」に呼称が変わっている。ジャージもコクコクとうなずいていた
「……ありがとう」
というと封を切って一口飲んだ。うまかった。それを合図のように皆、これが最期の水であるかのように惜しそうにチョビチョビ飲み始めた。
頃合いを見て、全員に向かって言った
「全員身分証明書を出せ。カッパ、お前は免許証あるか?」
「はい」
「よし出せ」
ジャージを除く全員が財布に入れていた免許証を私に手渡した
「ジャージお前は?」
「いや~~何にもないです~すみません」
泣きそうになって答えた。
「住所は言えるか?電話番号とか」
がっくり肩を落として、うつむくと首を振った。
他の人質たちが気の毒そうにジャージを見た。こいつも典型的な弱者だ。
「わかった。もういい。嫌なことを聞いてすまなかったな。」
私も暗い気分になりうつむいた。

この雰囲気にのみこまれちゃだめだ。うつむいていた顔を天井まで上げて深く息を吸い込んだ
「じゃあ、この籠の中のサングラスを取ってかけろ。カッパとジャージは帽子もな。」
自分が目を付けていた、米軍のアイウェアもどきの薄黄色いサングラスを取り、かけるとカゴを店長に回した。
他の6個はなるだけ色の濃い奴を選んである。
全員がサングラスをかけ終り、カッパとジャージが帽子をかぶるとギャング団のようになってしまった
カッパに私の枕替わりにしてくれたスーツをパンパンとはたき、着るように促した。
足元から先ほど火炎瓶をつくるのに切り損ねた雑巾を2枚渡すと、雑誌を5冊束ねてその上に雑巾を2枚重ねて粘着テープで固定するよう命令した。
店長がその作業に取り掛かったとき、ふと気づいてレジ横のキッチンコーナーに行ってみた。
シンクの上の棚を開けると、やはりあった。洗いたてのタオル。7枚とって席に戻ると、店長は早くもその作業を終えていた。
タオルを一枚取ると、覆面のように鼻と口を覆い、後ろで固く縛った。
「全員こうやってタオルを巻け。ガス銃で催涙弾を打ち込まれたらペットボトルでその覆面になったタオルを濡らして、タオルの上から鼻と口を掌で抑えて這いつくばれ。そのままトイレコーナーへ逃げ込め。」
「はい」
くぐもった声で返事が聞こえた。
「あと銃撃戦になったらなるだけ棚の真下に這いつくばって、じっとしてろ」
「はい」
またもやくぐもった声。
「最後に。私か矢口さんか、店長はポリがスタングレネードやガス銃を発射しかけたら『グレネード!』って叫ぶから、聞こえたら一斉にうつ伏せに伏せて目を力いっぱいとじて、両耳を両手で固く塞げ。自分の中でゆっくり5つ数えたら目を開けていい。わかったな?」
矢口と店長が心得たというように頷いた。
「しかし、これじゃまるで俺たちもテロ組織の一員みたいだな」
矢口が全員を見回して笑った。






いつのまにか小説ブログになってますが……つづきます……


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