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夏の凶悪(11)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
準備は整った。安藤警部からの電話はまだない。こちらからアクションを起こすことにした。
「店長、ドアー以外のガラス面にシャッターを下ろしてくれ」
「矢口さん、売り場にガスターボ式のライターがあったから2,3個持って持ってきてついてきてくれ。」
「店長、そこの粘着テープを。」
店長から粘着テープを受け取ると、3人で入口の方に向かう。
「矢口さん、ここの部分があるだろう?」
自動ドアーの下から12cmは金属製のカバーで覆われている。レールを走る車輪がおさめられたり、ガラスを挟み込むための部分だ。基本的に電動モーターはドアーの上部につけられている。下部のレールは床に埋め込んである。この深さは3cmだ。だから普段我々が見ているのは、露出した9cmの部分だ。その金属部の上の端にガラスを挟み込むコーキング処理がしてある。
そこから2~3cm上に目見当で5cmの円をAKの銃口で描いた。
「ここをターボライターであぶってくれ。目隠しの紙はやぶって構わない」
「カッパ!トイレに行ってバケツに水を汲んで、雑巾と一緒にもってこい!」
カッパに聞こえるよう声を張った。
矢口が目隠しの紙を器用にはがしてる間にカッパがバケツを持って現れた。
「じゃあやってくれ」
矢口がガラスにターボライターの炎を当てはじめると、すぐに飛散防止シートが燃え始めた。
ある程度燃え広がった所で、カッパに濡れぞうきんを密着させ、火を消した。
矢口はまた炎を円を描くようにまんべんなく当て始める。
こいつだけは私が何をしたいのかわかってるようだ。
「目隠しの紙に水をたっぷり含ませて、燃えないようにしておけ」
矢口がカッパに命令した。カッパはコクリとうなずくと雑巾で、矢口の作業の邪魔にならないように周りの紙を濡らしだした。

「店長、ドアー以外のシャッターを閉めてくれ」
店長は軽く頷くと、レジカウンターの中に入ると、煙草陳列棚横の、店内の照明スイッチを一括制御できるコンソール、エアコンのスイッチが並ぶ壁面の一際大きな3連スイッチの下の2個を押した。
ガァアアアアーーーっという金属音とともに一斉にシャッターが閉まりだす。
「すまんが、有線放送も切ってくれ」
それには何も答えず、何やらすぐそばの小さな黒い箱のスイッチを押すと、軽く流れていた店内案内と曲が消えた。
矢口がカッパに指示を出している
「あと2個残りがあったはずだ。持ってきておいてくれ」
カッパが小走りにライターを取りに走る。ガスはスプレーにしろライターにしろ真上に抜ける。
横に使ってる今はガスのロスが多いのだろう。

シャッターが閉まり終わるのと同時に、ヒップポケットに突っ込んだ電話の呼び出し音が鳴り響いた。
「矢口さん、作業を続けてくれ」
こっちを振り向かずに後姿で頷いたのがわかった
「ジャージ!こっちへ来て見張ってろ」
「はい~~」
ジャージと入れ違いに、TVの見える椅子に座ると、電話を取り出し通話ボタンを押して耳に当てた
「安藤だ」
「ああ、月島だ」
「何事だ?」
「いや、特に。人質の命が大事なら余計な詮索はするな」
「……」
「医者の用意はできたのか?」
「ああ、何とか説得してそちらに向かってくれることになった」
「そうか」
「お前さん、心の病なんだってな……」
「……。」
「だが、ここまでやっておいて判断能力がなかったとかは、通じんぞ?」
私は声をあげて笑った
「な、なにがおかしい!」
「まあ、ネゴシエイターの方が興奮するなって。冷静沈着でいろ、って特別教育課程で一番に習わなかったか?」
「……詳しいな……。」
「最初から判断能力だの、情状酌量だのは期待していない。」
「そうか……。一つ交換条件があるんだが?」
「なんだ?」
「一人でもいいから今、店内にいる人質を解放してくれないか?」
「かまわんが、それには2つの条件をそっちも飲んでくれ」
「なに?金か?逃走用の車か?」
今度こそ大声をあげて笑った。
「……」
安藤は今度は激昂しない。自己抑制のしっかりできる人物のようだ。
「言うぞ。書きとめろ。そこらへんにNHKのカメラとリポーターがいたな?そいつらを店内に入れて全国ネットで流す。もちろんそれでは他局から憎まれるだろうから、民放キー局系列のローカル局にもNHKさんのそこの機材車を使って、配信してもらう。2番目は、このコンビニへの電源供給を絶対に中断しないことだ。」
「む……」
安藤警部は思案していた。
「お偉いさんにお伺いを立てなきゃダメか?」
嘲笑するように言ってやった
「……まあ、そういうことだ。ちょっとまってろ」
「あ、その前に」
「なんだ」
「NHKのカメラマンにここに向かって即電話をかけさせろ。技術的な相談だ」
「それならOKだ。ところでこちら側からは3人送り込むことになる。そっちは何人解放するつもりだ?」
「2人だな。手駒が7人と少ない。精いっぱいの人数だと思ってくれ」
「わかった。また電話する」
一旦電話を切った。足元の工具箱から金づちを一本取り出し、握りしめてドアーに向かった。
矢口がガスライターであぶっていた部分は黒い煤と赤くなった点が見える程度にしか、焼けては居なかった。
さすがは強化ガラスだ。だが強度はいささか落ちているはずだ。
「続けろ」
というと
「あとターボライターは2本だ」
そう答えて、また作業に戻った



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夏の凶悪(12)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
カウンターにもたれていると電話が鳴った。見知らぬ電話番号だ
「はい」
通話ボタンを押して応えた。
「あ、NHKのカメラマンの池田と申します。」
「ああ。炎天下の中ご苦労さん」
「いえ。いつもですから。ところで何の御用で?」
先ほどの安藤との会話を伝えながら奥のTVの所に戻った。
「可能か?」
「えーとですね、私達がここの現場を移しているのが、TVスタジオ何かで使うような大型のカメラの一つ下の中型のタイプになります。これは重量もあって、ズームした時ぶれにくいです。ただし私じゃあ担げないくらい重いです。一番軽いのになると片手サイズのHD品質のものもありますが、手ブレがひどいですしおっしゃられた他局への同時配信は出来ません。一番いいのは私どもが肩で担ぐハンディってやつですね。本当なら、音声マンと照明さんもはいれれば、抜群なんですがね……。」
「照明は器具だけ持って来れば、いくらでもこっちにコンセントがあるぞ」
「いや、200V3穴の特殊な奴ですので……まあ機材車が電源車も兼ねてますんで、距離的にも届くはずなんですが……」
「じゃあいいじゃないか?」
「私が肩にハンディー背負って、もう片手でピントあわせたり操作するんです。照明までは手が回りません。」
想像してみた。無理だ。
「照明の操作はむずかしいか?」
「いえ、簡単です。明度さえキープできればいいんで。」
しばし考えた。
「分かった。照明はひとつだけでいいんだな?」
「はい」
「じゃあその操作はこちらでやる。機材だけ持ってきてくれ。すまんな。」
「あ、わかりました」
「あと……その……カメラマンさんの横のリポーター。女の。」
「はいはい、います。」
「インタビュアーとしても優秀なのか?答えにくかったらそこを離れてもいいぞ」
「……」
TVを見ると、カメラマンが女性リポーターに向かい何やら囁き、他の報道カメラの砲列の方に向かって行った。
「正直言って、ダメダメですね。実況とかもガタガタです。ただ、お偉いさんのお気に入りで……」
「そうか、用事にならんな……」
「でもちょっと待ってください」
「ん?」
それには答えず他社のカメラの後ろ側に陣取って椅子に腰かけ、うちわを仰いでる開襟シャツの初老の男性に声をかけているのが分かった。
しばらく見ていた。安藤警部の方も上部との折衝に時間がかかっていた。動きがない。

「あ、もしもし?池田です。月島さん?でしたよね」
「ああ。それはもう報道発表されてるんだな」
「ですね。えと、さっきの話ですけど。TBS、JNN系列の『報道特集』って知ってますか?」
TBSやJNNという言葉はピンとこなかったが、『報道特集』という番組はよく知っていた。
まだ病気を患う前、若い頃……になってしまうが、硬派な報道番組で毎週のように見ていた。
「ああ、知ってるがどうした?」
「若い頃からその番組でディレクターや、カメラ片手に活躍されてた私の大学の先輩がいましてね。
今は故郷の高知で、系列ローカル局の『テレビ高知』でプロデューサーに天下ってるんですけど。」
「うん。」
「その人に交渉したら、インタビュアーの件受けてくれましたよ」
「は?他局なのにそんなことできるのか?
「ええ、まあうちは天下のNHKですから」
池田は自嘲するように笑った。
「よし、全局一斉中継の手筈は池田さん、あんたと現場指揮している安藤警部に任せる」
「はい、急ぎます」
「ところで分波というか、池田さんが撮った映像は機材車で他局に分けるんだな?」
「あ、そうそう。その通りです。」
「じゃあ店内に引き込むのは、カメラのケーブルと、照明、マイクのケーブルだけだな?」
「まあそういうことになりますね。でも、カメラのバッテリーだと切れたとき交換する間映像が途切れます。」
「そうか……外部からの電源供給は可能か?」
「一応できますが、結構動きに制約ができます。
「かまわん。大体でいい、それを束ねて直径何センチぐらいになる?」
「ん~そうですね。5cmから8cmくらいっすかね。」
「わかった。長々とすまなかった。切るぞ。」
「あ、はい。ではのちほど。」
そういうと電話を切って、ヒップポケットに突っ込むとドアーに向かった。
「終わったか?」
矢口に聞く。
「ああ、早くしないと冷めるぞ。」
頷くと持っていた金づちを振り上げ何度か狙いを定めると一気に振りおろした。
ボゴッと音を立てて、ガラスに穴が開いた。火力不足とはいえ、長時間たっぷりとターボライターで熱していたため、ガラスは飛び散らない。そこからは丸く抜けた穴を余裕をもって10cm程に穴のふちに沿って、コツコツと金づちの角を使って、なるだけ円形にショックを与えていき、最後に力をこめて叩くと綺麗な穴が開いた。
ガラスの断面に2重に粘着テープを張ると、穴に濡れぞうきんを詰めて封をした。


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夏の凶悪(13)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
金づちを持ち、TVのある奥の陳列棚に行くと椅子にどっかりと腰を下ろした
足元の工具箱に金づちを投げるように戻すと、その手で煙草を取り火をつけた。
思案する。
(店長はこの店の構造を知り尽くしてる。
ヤメデカの矢口は行動力もあり、胆力もありそうだが、油断はならない。
リストラの切れた時の凶暴性はうまくコントロールしないと危うい。
ジャージは子犬のようにじゃれて、従っているのでここで手放すのは得策とは言えない。が、これから先使い物になるとも思えない。
トヨタは居てもいなくても変わらない存在だ。
カッパの私を介抱してくれた優しさは、根っこからあるものだろう。)
突然電話が鳴った。
「月島だ」
今度はこちらから名乗った。
「あ、池田です」
声を潜めて、手で囲っているのかやけに声が小さくくぐもっている」
「ああ、どうした?トラブルか?」
「違います。そちらにはTVがもしかしてあったりしますか?」
答えに詰まった。さんざん考えた。罠か?
「どうしてだ?」
「もしあるなら背面にモニター入力という端子がありませんか?」
TVの裏を覗きこみ、背面端子の中に「モニター入力」という端子をみつけた。だがまだまだだ。
「もしあったらどうするんだ?」
「私がハンディー持って入ると、ここにあるカメラは用無しになっちゃいますよね」
「ああ、まあそうなるな」
「うちのクルーで今まで通りの店や警官隊の様子を撮り続けますんで、その様子をそちらのTVで見ることができます」
「ばれないのか?」
「放送電波を介さずに、ケーブル一本ですからね。誰にもばれません。」
「何でそこまで気を回す?」
「いや、報道マンの血が騒ぐというか、まあお祭り好きなんですよ。いい画も撮りたいですし、外の様子わかった方がいいでしょ?」
まあ、無くてもいいものだが、あって困るものでもない。
「好きにしろ。」
とだけ言って電話を切った。

「皆集まってくれ」
声をかけると、素早く全員が集まった。左腕のGショックを見る。11:40だ。
いよいよ沸点に差し掛かっていることに全員が気づいているのだろう。
「これから刑事から電話がかかってきた時点で、お前らの中から2名ここから解放する。希望者は居るか?」
有線放送のBGMが消えた店内に冷蔵ショーケースのブーンという低い音だけが響いた。
誰も名乗り出ない。
全員の顔を見回した。
「これからおそらく順次、全員を解放することになると思うが、後になればなるほど死ぬ確率は高い。」
妙な仲間意識が生まれているのだろうか。
「お前ら、この私の事件が収束するまで運命を共にするのかっ!」
声を張った。全員ビクっとなったが矢口以外は頷いていた。矢口は煙草を吸いながら目を細めてこの茶番を見ている。
「じゃあ私が2名指名する。指名されたら、文句を言わず出ていけ。」
また全員が頷いた。
「心配するな、誰が呼ばれようが恨みっこなしだ。返事は?」
「……はい」
「トヨタ、ジャージ、お前ら2人だ」
ぎょっとしたような表情で2人が顔を見合わせた
「立て。」
ジャージが泣きそうな顔で、こっちを見た。その手から弾無しベレッタをつまみ上げた。
そのまま右腰のホルスターにしまった。
ついでにジャージのポケットを探る。小銭しか入ってなかった。
トヨタはびくびくしながらこっちに来た。同じくポケットを探る。社員証、定期券、身分の分かるものは全て取り上げた。
「店長、さっきの雑誌の束持ってドアーの所に行ってくれ。それからリストラ、すまんが人質の振りだ。」
そう言ってリストラに微笑む。リストラもにやりと微笑んだ。リストラの両手を後ろ手に粘着テープでぐるぐる巻きにし、足首も同じようにぐるぐる巻きにした。見た目だけの拘束だ。
「おい、痛くはないか?」
「いや、全然です。」
「さっき、どっちに殺されても保険金が入るからいいと言っていたが、今はどっちがいい?」
いやらしい質問をぶつけてみた。
「今は、そうですね……月島さんです……」
タオルの覆面とサングラスでよくわからなかったが、明らかに照れている様子だった。
寒気がした。女に打ち殺されることを望む中年男。照れてモジモジしている様子がたまらなく気色悪かった。
「そうか。じゃあ役割をきっちりこなしてくれたら、天国に送ってやる」
それだけ言うとくるっと体の向きを変え、残る4人を連れてドアーに向かった。
両開きのドアーの右側に全員を集めた。
店長が持ってきていた漫画雑誌と雑巾を束にしたものをドアーの中央付近の床にトンと起き、私は寝そべってAKを床に伏せて構え、銃身を乗せた。ちょうどいい感じだ。そこに粘着テープで雑誌の束を固定した。上の雑巾がいい感じの滑り止めになっている。
「矢口さん、こっちへ来て左足で、銃身を軽く踏んでいてくれないか?まあ今回はないと思うが、いざこのAKを打つとなったら反動がすごい。撃ち始めたら強く踏みつけてくれ。」
やはり矢口はよくわかってる。私が店内の人間をドアーの右側に集めたのは、人質交換の際に左側を使って、出入り口の混乱を避けるためだ。もう一度銃を構える。私は自分をアホかと罵った。矢口の足のせいで、照準が見えない。まあ照準があっても訓練の経験もないし、ライフル射撃のように的を狙うのは無理だ。
「矢口さん、やっぱりいいや。銃を跨げるかな?」
「こうか?」
「もっと足広げて」
「これでいいか?」
「ああ。」
随分、射幅が広がった。
こんな銃、一番命中率の上がる伏射でもなけりゃ、当たりっこない。さすが突撃銃の名を冠するだけあって、前線の兵士たちが走りながら弾をばらまくのにばっちりだ。
付近に重ねておいた2連マガジン(弾倉)3セットを手元に引き寄せる。ヒップポケットから電話機を取り出して、見える位置に置く。
「店長、私が合図したらまず右のドアーを開錠して開けてくれ。次に私の後ろを通って左のドアーを開錠して開けてくれ。閉めるときはその逆で合図したら左、右の順だ」
「わかった」
「トヨタとジャージ、お前らは左のできるだけ奥の方に詰めて隠れてろ。私の合図で一斉に飛び出せ。両手を挙げて一目散に警察の所にかけこめ。振り返ったり、足を止めたら即座に撃つ。いいな?」
トヨタは頷いたまま、顔を上げない。
ジャージに至っては涙と鼻水まで垂らして、こっちを寂しそうに見ながらウンウンとうなずいていた。
「最後にカッパ。これを受け取れ。」
左手で右腰のホルスターから弾無し拳銃ベレッタを取り出すと、ポンと投げやった。
あわわわわという風に何度も受け取り損ねて一人キャッチボールをしてようやくつかんだ。
「これでぴったり矢口さんの右にくっつき、こめかみに銃を当てていろ。トリガー(引き金)には手をかけず、トリガーガードに人差し指をかけておけ。その銃はトリガーが敏感ですぐ暴発しちまう」
もっともらしく言ってやると、おそるおそる矢口に近づき
「あ、ども、マジすんません、こ、こうッスかね?」
などと言っている。まあいい。

AKのマガジンを一度リリースし、実包が詰まっているのを確認して装填しなおした。

Gショックがピピッと正午の短い電子音を鳴らした。ほぼ同時に目の前に置いた電話が鳴った
ナンバーディスプレイを見た。安藤刑事からだった




つづく





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夏の凶悪(14)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
なり続ける電話を、店長に習ったようにハンズフリーで受けた
「安藤だ」
「月島だ」
「こっちの準備は整った」
「いよいよだな」
「ああ」
「人質交換の順番はどうする?そっちにアイデアはあるのか?」
「ドクター、カメラ、リポーターの順で入ってもらう。入る前にそっちは人質を2人解放してもらう」
しばらく思案した。こちら側が不利だ。この場所ではTVも見えないし外の様子が分からない。
身体を起し、ハンズフリーから通常通話に切り替える。
「どうした?返事をくれ」
「そうだな……カメラが一番先に入店してくれ。そこで一人を解放する。人質がそちらに到着した時点で、医者とリポーターを出発させてくれ、同時にこちらも残りの一人を解放する。これでどうだ」
今度は向こうが思案する番だ。一旦電話を切る。
トヨタを見た。
「一番手はお前だ。カメラが入ったら、ダッシュで向こうまで走れ」
コクコクとうなずくトヨタ。次にジャージを見た。
「お前は演技派だから、2番手だ。重要だぞ?」
まだヒックヒックと涙をこぼしながらもうなずいた。
「いいか?よく聞いて覚えろよ?私が合図したら、ゆっくりと店から出ろ。そしたら向こうから男が2人歩いてくる。そいつらとおんなじスピードで警察の方に歩いて行くんだ。わかるか?」
「は、はい~」
しゃくりあげながら答えた。
本当に理解したのか不安だったが、まあいい。
電話を取り、短縮①を押した。
「はい、安藤」
「月島だが、どうなった?」
「いや、まだ協議中だ……」
妙な違和感を覚えた。受話器を押さえてTVを見に行った。やはり。
ドアーの右に5人、左に3人、フル装備の機動隊員がガラス面と壁にピッタリと貼りついている。最新の機動隊装備では、あさま山荘事件での教訓を生かして、狙撃の対象から逃れるためにヘルメットには階級章はついておらず、後頭部の首ガードについているだけなので、よくわからないが右側先頭の隊員が短銃を構えているから、恐らくこいつが隊長クラスなのだろう。安藤、やってくれる……。
イライラがつのって、また思考回路が働かなくなってくる。ヒップポケットからリスパダール液を取り出し、ビュッと口の中に勢いよく流し込んだ。こいつは即効性があるが眠気も催すのが難点だ。
転がっていたペットボトルの水で口の違和感を洗い流した。
向こうにこっちがTVを持っていることをまだ悟られたくない。
また計画変更だ。ハンズフリーにしてなくて良かった。ペットボトルを片手に、ドアーの所まで受話口を堅く塞ぎ歩いて行った。また頭痛がする。ボルタレンとSGをヒップポケットから取り出し、ペットボトルで流し込む。胃薬が欲しいが、ポケットにもそれほど容量はない。ドアー近くのレジ正面に液状のキャベジンが陳列してあった。
「店長、一本もらうぞ」
というと、返事を待たずに封を切って一気に飲み干した。冷えていておいしい。ラベルに胃痛、胸やけ、二日酔いに、とあったので少しはましになるだろう。
「店長、すまんが手を貸してくれ」
「ん?ああ。どうしたね?」
そういう店長を連れて、雑誌のコーナーに連れて行った。
「この奥のブラインドの向こうに、機動隊がぺったり貼りついている。」
「ふん、奴らの考えそうなことだ。で?」
「一気に両方のブラインドを開けられないか?」
「いや、ドリンクコーナーとコピー機の所に紐が分かれてる。一度には無理だ。」
「じゃあ、一つずつでいい。私が電話中にかかとを踏み鳴らしたら急いで上げてくれ。終わったらもう片一方もだ」
「ああ、わかった。」
「もしか、があるといけないから伏せてやってくれ」
「あいよ。どっちからいくね?」
指揮者のいる前方からは得策じゃない。後ろの雑魚から驚かした方が混乱は倍になる
「そっちのドリンク側からだ」
店長はコクッとうなずいて位置に着いた。紐をつかんでこっちに向かって指でOKサインを出した。
受話口を塞いでいた手を、そっと外すと耳に当てた
「安藤さん、聞こえるかな?」
「ん?ああ?どうした。こっちはもうそろそろ準備が整うぞ?」
あくまでシラを切りとおすつもりか……
「あんたと私の間の交渉に嘘はないよな?」
「……ああ」
一瞬の間が開いた。店長を見てかかとを踏み鳴らした。店長が一気にブラインドを引き上げた。
ガラスとシャッターがあるせいか、しばらくドア方向にだけ集中していた隊員たちはそのことに気が付いてないようだった。
その隙に店長はコピー機側にダッシュして、これもまた一気にブラインドを引き上げた。
今度は短銃をもち、引き攣った顔に汗を浮かべながらドアーを注視している隊長が見えた。
電話に向かって
「これがやっぱりあんたらのやり口なんだな」
そういうと、何かを叫んでいる安藤を無視して電話を切ると、電話機を店長に渡して右手でベレッタを抜き隊長に向けポイントすると、左手でガラスを強くノックした。
機動隊と言っても人間、本当に驚くと腰を抜かすものらしい。
隊長がノックの音に気付いて、こっちを見て私の目を見て、続いて自分を狙っているベレッタの銃口を見る。
これ以上ないほどに見開いた眼球の動きがスローモーションで見えた。







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夏の凶悪(15)

Category : 夏の凶悪
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ジャンル : 心と身体
驚いた隊長はそのまま後方に吹っ飛んで後ろの隊員にぶつかると、将棋倒しに隊員たちが倒れていって一斉にしりもちをつきながらこっちを見た。
視線を上げると大隊長らしき人物が黒と白に塗り分けられた指揮棒を振り回しながら、何やら叫んでいるようだった。
隊員たちが、腰の抜けた隊長を引きずるように2人がかりで引っ張って後退していく。右手の隊員たちも走って戻っていくのが視界の隅に見えた。
急いでAKを置いた簡易銃座に伏せる。
「店長!急げ右のドアを開けろ!」
「おう」
店長が急いでドアを開錠し、う~~んと唸り顔を真っ赤にしながらどあを開けた。
熱気が一気にムワッと押し寄せる。お構いなしに店とパトカーの間あたりに狙いを突け、トリガーを引いた。
タタタタタ、タタタタ、タタタタタッ
着弾したアスファルトが弾けて土煙を上げる。
排莢された薬莢がカランカラン店内に転げ落ちる。
左右に銃口を少しずつ振って、射線を広げて逃げ惑う機動隊員たちを脅した。
誤って被弾させないように、銃身が浮き上がらないように地面だけを撃った。
カチンという音と共に最後の薬莢が排出された。AKの中でも私が手にしているAKS-74Uは発射速度が650~735発/分と通常のAKよりかなり早い。30連マガジンをリリースボタンを押して排出すると、新しいマガジンを差し込んで、コッキングレバーを引いた。装弾完了だ。
「店長電話をくれ」
店長が電話機を滑らせてきた。キャッチした私は短縮①を押し、左側に置き換えるとハンズフリーにした
「……し、もしもし!」
向こうでの喧騒が伝わってくる。
「安藤さん、まだ私は怒ってないけど……一つ目の裏切りを犯したね?」
「……」
「何とか言ったらどうなんだ?」
「すまん。まだこちらの統制が掌握しきれてないうちに警備部が暴発した。俺も警察機関においては一個の機械にしか過ぎないんだ。分かってくれとは言わないが、本当にすまなかった……」
「まあ作戦が成功してたら、そんなことも言わずに記者会見でヒーローインタビュー受けてたんだろうな」
嫌味たっぷりに言ってやった。店長の方を見て左手へまわれと目で合図した。店長はすぐに察してわざわざドリンコーナーからTVを置いた最後列を迂回し、カウンターに入りドアーの左側に立った。
「バカな。あんなの本部長と署長だけだ」
「ふん、そうか。」
突然矢口が上半身だけ斜め後ろに向けると
「しかしこの状態は暑いな。とっとと終わらそうぜ、月島さん。やってられねえ。」
とわざと電話に聞こえるように言った。
「そうだな、もうそろそろイラついてきた。終わらそう」
矢口と目が合うとお互いがニヤっと口をゆがめているのに気が付いた。
「ちょ、ちょっと!終わらせるってどういうことだ!月島っ!」
あわてる安藤警部の声がおかしかった。
「あせるなよ。もうこれ以上のゴタゴタは面倒だ。このまま人質交換だ。」
「……」
「打ち合わせ通り冷静に素早くやってくれ。5分以内に行動に動かない場合、こちらの人質を一人ずつ殺す」
「協議する」
「ああ。その間カメラマンの池田さんに代わってくれ」
「分かった」
すぐ隣で待機していたのか、池田はすぐに出た
「池田さんか?」
「はい。さっきのは凄かったですね!おかげでいい画が撮れましたよ」
苦笑してしまった。カメラマンというものは善悪関係なしに起こった事象を、いかに上手く撮るかだけが職業意識として刷り込まれているのだろうか。
「池田さんは、一番に入店することになるんだが……
「はいはい。」
「その、さっき言ってたケーブルだが最前列のパトカーの盾をぐるっと回避して、店内に引き込むことが可能か?」
「パトカーからどれぐらい離しますか?」
「そうだな、なるだけ遠く。10mは欲しいな。」
「店内での取り回しに15m……外壁に沿わして……うーん微妙なところですが、なるだけやってみます」
「頼む。」
「あ、月島さん?僕が正面から入店すると、店外で言われたケーブル配置をするのに手間がかかって、スタッフも怖がると思うんですが……」
「ああ、じゃあケーブルの経路で入店してくれたらいい。」
「あ、それと」
「まだ、何かあるのか?」
「スチルカメラを持って行ってもいいですか?実はそっちの方が得意なもんで」
「ああ、いいぞ。もし何もかも終わってお互い生きてたら、刑務所に持ってきたらサインしてやるぞ。その代り美人に写せよ。」
「ははは、わかりました。あ、刑事さんが呼んでるんでそれじゃのちほど。あ!電話貸せって言ってるんで代わります」
「ああ」
「安藤だ」
「ああ」
「上のOKが出た。あんな醜態を全国ネットで流されたからカンカンに起こってやがる。機動隊もしばらくおとなしくしてるだろうよ」
眉に唾を塗りながら聞いた
「あんたが演技派じゃないことを祈るよ、安藤さん。じゃあ始めようか。カメラからだ。」









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夏の凶悪(16)

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「……わかった。じゃあカメラから出す」
「ああ」
安藤の声が幾分疲れてきてるように感じた
「カメラさんには、この店までの経路を伝えてあるから、妨害はするな。次は死人が出るぞ」
「わかった……」

カメラマンの池田が、ハンディーカメラを背負って、ショルダーバッグをたすき掛けにして動き出したのが見えた。
すぐに視界の左隅に消えたのもつかの間
「池田です。入ってもいいでしょうか?」
という声がドアーの左横の壁付近から聞こえた。
一番前ににいる矢口に確認さす。矢口が振り返ってうなずいた。
「急いで中に入って、ケーブル回しを完了させろ。」
ドアの外に聞こえるように池田を促した。
池田が、機材を背負って店内に入ってきて、私の横を通り過ぎ店内の奥まで行きついた。
「ども。撮影位置はどうしますか?」
「ん?距離的な問題か?そこで十分だが、取り回しの不便があるだろうから、もう5m程引っ張り込んでいいぞ。」
「はい」
そう言いながら池田が、クンクンとケーブル束を引っ張ると、そう力を入れるでもなくケーブルが引き込まれて来た。
外に目をやると、NHKのスタッフらしき人間が数人でケーブルを引っ張っていた。相当の重量があるのだろう。
「あ、月島さん、OKです。」
池田が指でOKサインを出している。カメラを見るとレンズの上の赤いLEDが点灯している。
「なんだ?もう撮っているのか?」
苦笑交じりで聞いた。
「あ、はい。機材車を出る所からまわりっぱなしです。もう全国ネットでこの画は流れてますよ」
「音声は?」
「あ、専用マイクの性能ほどではありませんが、一応は拾えてます」
銃座を離れて、池田の側に寄って耳打ちをした。
「カメラはむけるな。あのTVのことは言うなよ」
そう言って最奥のTVを指差した。ファインダーから目を離しカメラを床に置くと池田はTVの方に近づき、背面端子を覗くと、ケーブルの一本を器用に接続した。リモコンを操って画面に「ライン1」と緑の表示が浮かぶのと同時に、今まで店内から外を見るアングルが映っていたのが、外から店の外観を見渡す映像に変わった。
池田がニッと笑う。私もそれに合わせて頷いた。
カメラの死角を通って、ドアーの位置に戻った。銃座に寝そべりAKを再び構える。
電話が鳴った。安藤からだ。
「そっちの準備が整ったら、一人解放してくれ。」
やけに弱腰だ。カメラを入れた事で一応の状況が把握できるようになったからか……。それとも……。
用心は大事だが、用心しすぎもよくない。
「ああ、もう準備は出来てる。だが今度下手なまねをしたら、威嚇射撃では済まないからな。」
「……わかってる。」
「じゃあ、一人約束通りに開放する。」
電話を切った。カメラマンの池田がすぐ背後から息を殺して、撮影を続けている。
警察陣営では機動隊がパトカーの前面に整列し、ポリカーボネイト製の透明の盾を並べだした。
AKの純正弾では、マンストッピングパワー(人を殺傷して、その場で倒れ込ませる能力)はを重視するため、この盾は貫けないが、私の持つフルメタルジャケット(完全被甲弾)は貫通目的で作ってあるため、ポリカーボネイトなどたやすく貫く。
盾を貫いた弾丸は速度を失い、被弾した者の体内で弾頭は潰れて弾けながら体内に大穴を開けて貫通する。
要は、盾など無意味ということだ。
さっきの小隊長が短銃を構えている。その後ろのパトカーの背面からも刑事が数名、ボンネットに両腕を置いて固定しながら、短銃を構えている。
遠目にもニューナンブではない、明らかなオートマティック拳銃が見える。おそらく去年から制服警官にまで支給されだしたH&K(ヘッケラー&コッホ)のP2000だろう。最大17発も9mmパラベラム弾が撃てる厄介なドイツ製拳銃だ。
グリップも細く、使いやすいため私も最初はこの銃を狙っていたのだが、イカレ米軍人の持ってきたのは、重くデカイ中古のベレッタだった。
「じゃあ、いくぞトヨタ。」
頷くトヨタ。
「さっき私は、走っていけと言ったが訂正だ。ゆっくり歩いて行け。途中何か異変がに気づいたら、すぐに戻ってきて知らせろ。裏切ったら背中から撃つ。いいな?」
「はい……」
「出るときは、両手を広げて上にあげて歩け。撃たれるぞ」
脅した。トヨタは汗を拭きながらうなずくだけだった。
「よし、いけ」
「はい」
トヨタはサングラス、マスクのまま両手を上げてドアーから一歩踏み出した。
2,3歩歩き出したところで、こちらを振り返り、キョロキョロとあたりを見渡した。
突然左の壁の死角に入ったと思うと、急いで店内に入ってくると、すぐに私に何かを手渡した
厚み2~3cm程の丸い物体と、手のひらサイズの黒い箱から紐が伸びている。
「コンクリートマイクですよ。壁の向こうの音を聞き取るマイクです。その紐はアンテナで送信してるんでしょう」
池田がカメラで私のてのひらの物体を映し出した。
「小賢しいな」
黒い箱を眺めると3段切り替えのボタンと、オン/オフスイッチがあった。即座にオフにした。
何かに使えるだろうと、薬も残り少なくなったヒップポケットに押し込んだ。
正面を見ると、明らかに動揺が広がっている。
「トヨタ、ご苦労だった。それからさっき言い忘れたが、向こうに着いたら中で起こったこと、自分の名前、一切喋るな。そうだな……17時までは粘ってくれ。ジャージもだ。わかるか?」
トヨタとジャージが頷いた。
「よし、トヨタいけ」
今度は無言でトヨタが足を踏み出した。
ざわつきが治まり、酷暑の陽炎が経つ駐車場に静寂が広がった。バンダナの下の額から流れ落ちる汗が顎を伝って、床に落ちる音さえ聞こえそうだった。
AKの照準をトヨタにポイントし続けた。さっきの機動隊への威嚇射撃で、段々このAKの癖が分かってきた。
この距離なら弾をばらまけば、確実にトヨタは死ぬ。引き金にかけた人差し指がかすかに痙攣している。

トヨタが機動隊の間合いに入った、と思った瞬間餌に群がるピラニアのように機動隊に囲まれた。
安藤ではない他の私服警官が2名その群れに飛び込むと、トヨタを引きずりだしがっちり拘束して視界の外に連れ去ってしまった。
まあ、警察側では私が単独犯なのかどうかすらOLの証言のみで動いているので断定できていないだろうし、犯人一味なのか人質なのか判断が付きかねたのだろう。
サングラスに覆面ばかりが揃っているのだろうし。トヨタがこれから受ける尋問を想像したり、さっきの対応を見て私は本当に愉快だった。人生のレールにうまいこと乗り、平々凡々のんきに暮らしてる輩が突然の修羅場にめぐりあう。修羅場でこそ、そいつの人間性はむきだしになる。その様子を観察するのは滑稽で、愉快で、時に驚かされ実に興味深かった。修羅場を味わった奴にも、そいつにとって人生最高のスパイスになるだろう。例え、死んでも、生き残っても。

電話が鳴った。安藤だった。よく電話をしてくる奴だ。最初に取り決めたのだから、その通り遂行すればいいだけの話だ。







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夏の凶悪(17)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
なり続ける安藤からの電話をしばらく放置して、胸ポケットから煙草を取り出した。
寝そべっての作業なので、かなり窮屈だったが敢えてジッポを取りし火をつけ、ゆっくと煙を吸い込み吐き出した。
正面に相対している安藤からは丸見えの行為だ。さぞ焦れていることだろう。
煙草を吸い続ける。残りが1/3程になって、床でもみ消した。電話は鳴り続けていた。
ハンズフリーで電話を取った。
「月島だが?」
わざとめんどくさそうに答える。事実日内変動からか、段々と体全体がだるくなってきていた
「安藤だ」
安藤の声にも疲れが見えている。この炎天下にずっと立ちっぱなしで交渉人をやってる。疲れるなという方が嘘だろう
「無事約束を果たしてくれたことを感謝する。」
「ああ、そっちは色々邪魔が入ったみたいだがな」
「まあそういうな……だが、さっきの男がどうしても身分どころか名前も言わん。身分証明の類も持ってない」
「ああ、それは私が指示した。身分証明書も私が管理している。」
「なんでそんなことを?」
「さあな。だが人質にしろ、共犯者にしろ、私の手駒を失ったことには変わりないだろう?」
「たしかにそれはそうだが……。」
「心配なら、留置所にでも放り込んどけよ。リミットは17時と言ってあるから、そうなりゃ喋るだろう」
「何!17時?リミット?どういうことだ?」
「だらだらやってもしょうがないだろう?サクッと済ませて、人質解放私を逮捕か、この中の人間全員殺して私も死ぬかだ。」
「ふざけるなよ!」
ちらっと時間を確認した12:37。
「カメラとトヨタの交換だけで40分もかかってる。急がないとあっという間に17時がきちゃうぜ?」
黙り込む安藤。
本当は17時という時間指定に根拠はない。ただ薬漬けの私の集中力が持たないと予測したのと予備の薬が心もとないからだった。
「どうする安藤さん、私が今ここで人質を殺して玄関先に放り出して、お互いにその死体が暑さで腐っていくのを尻目ににらみ合いを続けるのか?」
さらに焦らすように追い打ちをかける。負けたのは安藤だった。
「分かった。医師とリポーターを送る。確か同時にスタートだったな?」
「ああ。それともう一つ。」
「なんだ?」
「このTV中継を絶対に中断するな。」
「……わかった。というより今さら報道管制はできんよ……」
「そうか。今度は同時スタートだから、電話はつなぎっぱなしでいいだろう」
「そうだな……」
ハンズフリーのままジャージを見た
「ジャージ、世話になったな。また遊ぼうな」
「うんうん。お姉ちゃんと最後まで居たいよ~」
ジャージはまた啜り泣きを始めた。このやり取りはハンズフリーを通して安藤の耳に届いてるはずだ。
「そうもいかないんだよ、ジャージ。お前はよくやってくれた」
「う、うう、ううう~~」
「お前、住所とか電話番号言えなかったよな?思い出したか?」
「だめです~。僕すぐ忘れちゃうから~わかんないよ……」
「じゃあ向こうに着いたら、刑事さんにちゃんと調べてもらうんだぞ」
「はい~~」
「じゃ、バイバイだ。ドアーの外に立って、向こうから2人の男の人が来たらパトカーに向かってゆっくり歩くんだぞ。わかったな?」
「はい~」
いつまでたっても啜り泣きをやめない。青っ鼻まで垂らしている

「安藤刑事、今の聞こえたか」
「……ああ。」
「そっちにたどり着いたら身元照会を頼む」
「わかった……月島、お前も少しは人間らしさがあるんだな」
「は、何を言ってるんだか。まさかアンタ、私が憐みや同情を感じてるとでも?」
「い、いや……そういうわけでは……」
萎えかけていた気力が沸々と湧いてきた。
「あんたらみたいな健常者は、私らみたいな規格外品をいつも見下してやがる。ボランティアだの、福祉だの、何でもかんでも上から目線で、自己満足のために施して『ああ、私っていい人』ぶりやがる。反吐が出るぜ。私らは欠陥品だよ。でも乞食じゃねえ!。もういい!ジャージ、前へ出ろ」
「落ち着け!落ち着けよ!俺が言いたかったのは」
「さっさとそっちも医者とリポーターを出せ」
途中で安藤の言葉をさえぎって要求のみを伝えた。甘い言葉で懐柔する作戦だろうがそうはいかない。
「……わかった。出そう。」
しばらくして機動隊の真ん中をかき分けて、見知った医者とさっき見たばかりの老リポーターが出てきた。
私とリポーターの目が合うと、軽い足取りでこっちに向かってきた。その後ろを封筒を抱えた医者がびくびくしながらついてきている。
「ジャージ、行け。元気でな。」
そう声をかけると、ジャージもリポーターに歩調を合わせてスタスタと歩いていく。素直ないい子だ。
今度の交換は何事もなく、うまくいった。
2人を店内に入れ、ジャージの様子をうかがう。トヨタのように機動隊に押しつぶされることもなく、私服刑事に連れられ視界から消えていった。
電話をハンズフリーから通常会話に切り替え
「これでひとまず人質交換は終わりだ。これからしばらくは電話は受けない。状況はTVで確認しろ」
それだけいうと安藤警部の返事を待たずに電話を切った







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夏の凶悪(18)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
店内に入ってきたドクターとリポーターが所在なさげに、私の後ろでぼーっと突っ立っている。
「邪魔だ。もう少し奥に行け。巻き添え喰らって撃たれるぞ。」
振り向いて冷たく言い放った。
日内変動なのか、軽躁状態が治まってきたのか、段々と活力というものがなくなってきている。
とりあえずのひと段落が付いたからだろう。だがこのまま鬱状態に陥るわけにはいかない。
むりやり体と精神に喝をいれた。後の反動がひどくなるのは重々承知の上だ。
「店長、ドアーに挟まれる部分のケーブルを粘着テープでぐるぐる巻きにしてくれ。」
「わかった。」
店長はてきぱきと作業を進めていく。
「終わったら、左のドアーを閉めろ。そこに私の開けた穴があるだろう?」
「ああ、この穴だな。」
「その穴にケーブルを通して、右のドアーを閉めると両方のドアーが施錠できるはずだ」
「なるほどな。わかったよ。」
こっちを振り返ってうなずくとケーブルを巻く作業を終えた店長が、左の自動ドアーを閉めて施錠した。
「すまんが、月島さんケーブルを穴に通して持っていてくれないか?」
店長が右のドアーの前でそう言った。
ぱっとあたりを見回す。矢口とカッパは人質ごっこをしている。リストラは奥で拘束したままだ。
自由に動けるのはわたしだけか、と思い銃座から身を起こした。
異様に体が重く感じた。何をするのも億劫になってくる。気力を振り絞った。
なんとかケーブルを左ドアーに開けた穴に通して、店長が右ドアを閉めるのを待った。
店長が重いドアーを閉めると、ケーブルが固定された。
「いいぞ、施錠しろ」
それには応えず、カチンという音だけがした。穴はケーブルが通ってもまだ隙間があった
後ろでカメラを回している池田を振り返り
「これで固定してもいいか?まだ引き込めるが」
と聞くと
「いや、十分です」
とファインダーから目をそらさずに答えた。
ますます倦怠感が増していく。急降下しているようだ。
「店長、穴の隙間をテープでふさいでくれ。矢口、カッパ、ご苦労さん。飲み物でも飲んで、奥に行っててくれ。ただしカッパ、お前は全員の見張り役だ。誰かが妙なまねをしたら、即撃っていい。」
それだけをようやく言うと、しっかりした風を装って、AKを銃座から持ち上げて肩掛けにすると洗面所に向かった。顔を覆っていたタオルを外すと、ヒップポケットから残り少なくなった薬を取り出す。ベタナミンを3錠、アモキサンを4錠、これだけは飲むまいと思いながらも、持っていたパキシルを2錠40mgを一気に口の中に放り込み、口の中でガリガリと噛み砕いた。堪らない苦みが襲う。洗面所の水で飲みほした。うがいをするように口に残った薬のかけらも全て飲みこんだ。
サングラスを外すと、顔をごしごし洗った。タオルで顔を拭って鏡を見るとひどい顔色だ。頭巾かぶりにしていたバンダナを外す。髪が垂れると、余計に亡霊のようだ。どうせ最期の舞台だ、TV映りぐらい良くしたかった。
洗面台に頭を突っ込んで髪を濡らした。いつも習慣で左手につけているヘアゴムを使い、髪をアップにしてゴムの部分を隠すようにバンダナで巻いた。顔を両手ではたいた。パキシルが噛み砕いたせいで早くも効果を出したのか、プラシーボ効果なのか定かではないが軽い酩酊感が体を襲ってきて、幾分体も気分もリラックスしてきた。
だが判断能力の減退という大きな対価を払っている。
ベタナミンの高揚作用が出てくるのはまだ先だろう。サングラスをカチューシャ代わりに頭に乗せる。タオルはいつ役に立つかわからない。右腕上腕部に巻きつけ、左手と歯で結んでとめた。

洗面所を出ると、すぐに最奥のコーナーだ。池田が何やら指示してセッティングをしているらしかった。
ツカツカと歩いていく。カッパを捕まえた。
「おい、何をやってる」
「いや、あのアレっすよ」
「アレじゃわからん」
「あの……何つーか……TV中継するんすよね?」
「ああ、そうだが?」
「それで、あのカメラマンの人が最高の画を撮りたいからって、超仕切って、色々おっぱじめちゃって」
「なるほど。で、お前は何してる?なぜ撃たなかった」
「いや……姉さんも人が悪いっすよ。この銃、弾入ってないじゃないすか……」
「なぜわかった?引き金を引いたのか?」
少し動揺した。だが悟られぬように聞き返した。
「ま、まさか。ただ、さっき人質交換のとき、俺、矢口さんのこめかみに銃を向けてたじゃないっすか?」
「それで?」
「やっぱ超ビビっちゃって、まともに狙えなかったんすよ。そしたら矢口さんが……」
「なんだ?」
「矢口さんが『安心しろ、その銃に弾は入ってない』って耳打ちしてくれたんすよ。」
私がフロアに伏せて、AKを構えている間にそんなことがあったとは……
床に座って片膝を立てながら、缶コーヒーを飲みながら煙草を吸っている矢口を睨みつけた。
だが矢口はそっぽを向いたままだった。
くそっなんでわかった……だがばれた以上仕方がない。
「このことを知っているのは、矢口とお前だけか?」
カッパが黙ってうなずいた。
「じゃあ、普段通り、いや……オーバーアクションでもいい。脅しと牽制を続けろ」
「OKっす」
気を取り直して、池田のいるほうに歩いて行った。





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夏の凶悪(19)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
カウンターの裏口側付近で何やらケーブルをつないだり、リポーターと打ち合わせをしている池田に近づいた。
「どうだ、池田さん。順調に準備は整ってるかな?」
勝手に動き回りだした池田に憤りが募るが、隠し通して喋りかけた。
池田は振り向くと
「そうですね、この店の明るさだと照明はいらないかもですね。少し画像が荒くなる可能性はありますが」
「画像が荒くなるとは?カルテの文字が見えなくなるくらいか?」
「いえ、それはバッチリ撮れますよ。見ててください。」
というと、さっとレジ横の新聞コーナーから一部ぬきだし、戻ってきてフロアに広げた。
カメラを担ぐと、無言で奥のTVモニターを指差した。歩いていき画面を見ると、新聞の文字が鮮明に映っていた。
池田を振り返り指でOKサインを出すと、カメラを裏口方向に向けてカウンターに置いた。
池田を指で招いた。
「よく映るじゃないか。どこが画質が悪いんだ?」
「いや、HD画質じゃないってだけで、毛穴が見えるか見えないか程度の話です」
HD画質というのはよくわからなかったが、これだけ映れば上等だ。
そのときはっと気が付いた。池田の耳にイヤホンがささっていた。後ろに回りYシャツの背中を触ってイヤホンから延びる線を感触だけで探っていく。緩めのチノパンの中まで入っている。両足の内またを触った。あった。
固い10cmに満たない長方形の物体。池田を見上げて口に人差し指を立てて「喋るな」とサインを出した。
池田のベルトを外し、ボタンを外しジッパーを下げると、一気に下まで引きずりおろした。
黒い物体がガムテープで張り付けられてある。よく見た。やはりこれにもON/OFFスイッチがあった。
スイッチを切って、立ち上がった。
「池田さん、どういうことだこれは?」
池田はエアコンの効いた室内で、滝のような汗を拭きだしていた。
「こ、これはインカムといって機材車や中継車から、どのアングルで撮れとか指示を受けるためのものです」
「これにはマイクの機能もついてるのか?」
池田の耳から無理矢理イヤホンを引っこ抜いた。
「……。」
黙り込む池田。無言は肯定だ。
「ということはだ、池田さん。指示をくれる相手がNHKじゃないということも十分考えられるよな?」
「そ、そうですね」
「さっきから不自然にカメラを裏口に向けて回しっぱなしなのは、裏口の様子を知りたい『誰か』の指示か?」
またうつむき黙り込む池田。ようやく薬が効いてきたのか精神が上向きになってきた。
送受信機を括りつけてあるガムテープを腰の後ろのシースから抜いたナイフで切り裂く。ナイフをしまうと、送受信機を下に向けて引っ張る。池田の耳から抜けたイヤホンがズルズルと背中を伝い、手元にポトリと落ちてきた。
コードを送受信機にグルグルと巻き付け、軽く拘束したリストラの襟首を掴むとズルズルと引っ張って裏口近くのフロアに転ばした。
「カッパ、そいつのズボンとパンツ脱がせてフルチンにしてこっちへ連れてこい!」
命令通りカッパが池田を連れてきた。
「カッパ、その裏口の立てかけてある三脚をのけろ。」
「あ、ちっす」
こいつの若者言葉(?)にもそろそろ我慢の限界が見えてきつつある。
カッパは言葉とは裏腹にキビキビと三脚を畳んで運び出してきた。
「池田、カメラ担げ!ちゃんと撮るんだ。」
「は、はいっ!」
随分聞き分けがよくなった。
「カメラのマイクはちゃんと音拾ってんだろうな?」
「大丈夫ですっ」
たったあれぐらいの薬で、今から起こることを想像して高揚を抑えきれない自分がいる。
リストラの覆面とサングラスを外した。目が本能的な恐怖を察して怯えている。
「カッパ手伝え。」
そう言い捨て、リストラの髪を掴んで裏口のドアーへと引きずっていこうとした。
無尽蔵の怪力があると思うのは脳だけで、実際はよく磨いたフロアから一段下りた、裏口の三和土の床はザラザラのコンクリ打ちっぱなしでカッパの助けがないと無理だった。
二人がかりでようやくドアー付近にリストラを立たせた時だった。
「光量足りなくて映りませーーんっ」
という池田の必死な声が聞こえた。カッパに池田のいいように照明を当てるよう指示した。
しばらくすると突然薄暗かった部屋が、まばゆい光に覆われた。
即座に右手でベレッタを抜き、光源に向かってポイントし左腕で両目をガードした。
「大丈夫っす、姉さん!俺ですよ、俺」
カッパの声が聞こえた。TV用の照明がこれほどまぶしいものだとは思わなかった。
「はい、カメラOKです。」
池田が言う。
「そこでいいんだな?照明は床に置いてる状態か?」
「いえ、カッパさんが手に持ってます。」
「床に置かせろ。」
「はい。」
左腕で目をかばいながら、光を見ていると角度や上下が変わってようやく安定した。目も明るさになれてきた。
「カッパ!お前はカウンターのおっさんたちを見張ってろ!」
と、まだまぶしさの残る室内で目を細めながら声を張った。もちろん、医師やリポーターにも聞こえるようにだ。
「へーーい。」
間抜けな返事が返ってきた。イライラする。でもいいぞ、私を動かす燃料は、怒り、憎しみ、そういった負の感情が必要だ。燃料が枯れたら私は即座に倒れ込むだろう。
今はまだまだその時じゃない。






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夏の凶悪(20)

Category : 夏の凶悪
テーマ : 双極性障害(躁鬱病)
ジャンル : 心と身体
「カメラ、いいな?」
「はい。回しっぱなしです。」
池田に再確認をした。白色に照らし出された裏口の三和土も目が慣れて、カメラのレンズが見えた。
じっとレンズを見据える。
「この報道を見ている者、私を包囲している警察諸君。私が犯人の月島だ。」
おもむろに口を開いた。
「これは犯行声明ではない。警告だ。報道を見て知っている方々は既にご承知の通り、私は数人の人質を取り、コンビニエンスストアに立てこもっている。」
「犯行目的は、これからおいおいとわかっていくことだろうと思う。だが、その前にはっきりさせておかなくてはならないことがある」
「警察は、これまで私と取引を行い、カメラマンを含む人質3人とこちら側で監禁していた2人の人質を交換した」
そこで一旦言葉を切り、ヒップポケットからトヨタの発見したコンクリートマイクを取り出し、片手に握っていた池田についていたインカムを同時に目の前に突きだした。

「カメラ、寄って映せ」
池田に指示を出す。
「だが、報道カメラが入っているにも拘らず、警察はカメラマンに盗聴マイクとヘッドホンを隠ぺいさせてこちらに潜り込ませた。そして店内の情報を逐一画像と音声で知らせるように、指示した。これは裏切りだ。」
手に持っていたコンクリートマイクとインカムを三和土に置くと、払下げの編み上げブーツのソールで思いきり踏みつぶした。
つま先と靴底に鉄板の入っている靴の衝撃は、簡単に2つの通信機器を木端微塵に壊した。
「今、私は『裏切り』と言ったが、まあ警察としては至極当然の対応とも言える。なにせ私は『悪党』で『立てこもり凶悪犯』だからな。」
自嘲気味に口を歪ませてレンズを睨みつけた。上手く撮れているだろうか。
「だが警察諸君、このコンビニは銃器で人質を取っている『悪党の城』で私が城主で、私がルールだ。よって、ペナルティーを与える。」

そう言うと振り向きリストラの後ろ手に縛られている両手を前に押し出し、カメラによく映るようにした。
「こいつはリストラと言う。名前の通りリストラされて、再就職の会社もなく、嫁や娘にはゴミ同然に扱われている居場所のない男だ。リストラ、何か言え」
うつむき加減だったリストラが顔をあげてレンズを見た。
「……洋子、ひろみ、甲斐性のないパパだった。もうしてあげられることと言えば、解放されても離婚して無意味に死んでいくホームレスになるか、月島さんに殺してもらって保険金をお前たちにおろしてもらうしかないんだ。本当にすまない……」
完全な負け犬の発言だった。だが、世間にはこういった人種があふれているのだろうとも思った。
目を覗きこんだ。リストラの目は完全に濁り、活力を失っている。
リストラの後ろに回り込んだまま、腰のシースからナイフを取り出し、両手を拘束しているガムテープを切った。
手を前に回さすと、手首に残ったガムテープを一気に剥ぎ取った。
ナイフを一度レンズに向け、リストラの左手首にあてがうと、力をこめて引いた。
ビュっと勢いよく血しぶきが飛んだが、あとはゴボゴボと赤黒い血がとめどなく手のひらを伝い、指先から三和土にしたたり落ちた。
力が弱かったようだ。右手首を掴むと、今度は刃の根元から、思いきり力を入れてハムを切るのと同様にナイフを使った。研ぎ澄まされたナイフはチーズでも切るようにリストラの手首を真一文字に切り裂いた。
今度は噴水のような血しぶきが、脈拍と同じように噴き出した。
だがこのくらいでは死に至らない。私自身の経験で分かっていた。
顔にかかったリストラの血しぶきをサスペンドベルトの下の上着、黒の長袖Tシャツの袖で拭い取った。
リストラは痛みと、自身から噴き出す血を見たショックでへたり込んでしまった。

ナイフを手に、レンズを睨みつけた
「これがペナルティーだ。これから残りの人質の身体検査をする。もし何か見つかれば、リストラの命は保証しない」
それだけ言うと、リストラに向かって言った。
「リストラ、お前は警察の裏切りのペナルティーを十分に支払った。手足は自由にした。そこのドアを開ければお前は自由になれる。警察は絶対に裏切る。お前を無意味に殺したくはない。その手も今から病院に行けば、十分な治療が受けられる。どうするかはお前次第だ。」
もちろんカメラとその向こうの視聴者を意識しての発言だ。
はなから、リストラなど、どうでもいい存在なのだ。
リストラは左手で、血の噴き出す右手を押さえたままうつむいて、返事をしなかった。
裏口にあった三段ボックスの上に、無造作に置かれた梱包用のビニル紐の束を見つけたのでリストラに向けて放り投げた。
「死にたくなけりゃ、二の腕でも縛っとけ」
そう吐き捨てた。

「さあ、次は身体検査にいこうか」
池田に向かって道を開けるよう指示した。
途中、カウンター横の流し台でナイフを洗いながら、ふと安藤警部を思った。
いくらか歯噛みしていることだろう。
TVの存在は知られたくない。電話はどうしても片手を塞いでしまう。
さてどうしたものか……





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灰音



name:灰音(ハイネ)

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